その5


干し芋展(平成5年1月14日)

 当館では年に2〜3回、特別展を開く。寒風が吹きまくる1〜2月は干し芋作りの最盛期なので、正月から3月にかけて特別展、「日本各地の干し芋」を開くことにした。現在、蒸し干し芋やゆで干し芋の産地として知られているのは長崎県の五島地方、茨城県の那珂地方、静岡県の御前崎地方と磐田地方などだが他にも小産地なら全国いたる所にある。 たとえば三重県の志摩地方、群馬県の榛東村や川場村、埼玉県の吉田町、寄居町、日高市などなどだ。

 自家用の蒸し干し芋やゆで干し芋は古くからあったが、売るために最初に作り始めたのは静岡県と愛知県の人という。静岡県では明治20年代に始め、明治37〜8年の日露戦争の時、軍への大量納入に成功、「軍人いも」の産地として一躍有名になった。

 茨城の干し芋は、明治40年代にこの技術を導入して始めたものだが今では静岡を圧倒、全国生産量の8割以上を生産する「干し芋大県」になっている。

 こうした歴史的な動きを知ってもらいたくて企画した干し芋展だったが、ものはやってみないと分からない。客には客の論理があるからだ。たとえば今日取材に来てくれた川越ケーブルテレビの大野由美さんの場合はこうなる。

 「先日、明海大学歯学部の先生の所へ取材に行きましたら、こう嘆いておられました。『さいきんの親は子供にやわらかいものばかり与えるので、たまにかたいものをやっても吐きだしてしまう。だからあごが退化してしまって歯並びが悪くなっているし、ものもよくかめなくなっている。するめとか落花生、干し柿、干し芋など、かみごたえのあるものをいつも与えなくてはね』 そんな話を伺ったばかりだったので、これはいけるとここへ来たんです」

 あごの発達と干し芋の関係なんて考えてもみなかったことだが、言われてみればいい関係にある。おかげで干し芋の効用を説くタネが一つふえた。

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幼児のおやつ論(1月15日)

 川越市内に住んでいるという山田まり子さんが、こんな相談に来た。

 「わたしは埼玉医大の医療セン夕ーに勤めていましたが、今は赤ん坊がいるので休職中です。NHKの放送大学に前々から入っていて、今やっと卒論テーマを提出できる所まで来ました。そのテーマなんですが、いろいろ考え、幼児の間食問題にしようと思うんです。

 一つはわたし自身が1歳と4歳の子の子育て中だからです。もう一つは、今の母親は子供に買ってきた袋菓子をそのまま与えたり、缶ジュースをがぶ飲みさせて平気でいるでしょう。そんなことをしていて本当に大丈夫なのだろうかと心配になってきたからです。

 と言ってもおやつもいろいろあって取り上げ方がむずかしいんです。あれこれ考えているうちに、『そうだ、ここは川越だ、サツマイモを柱に考えてみよう』となったんです。

 でも今までそんなことをやった人はないんでしょう? それで不安になってここへ来ちゃったんです。見込みはあるでしょうか」

そこでわたしはこんな話をした。

 「サツマイモが体にいいことを書いた本はいくらでもあります。それを活かした料理や菓子の作り方集もいろいろ出ています。太平洋戦争前の川越地方の農家の離乳食はサツマイモだったようですよ。ふかしたサツマイモを母親がロの中でかんでドロドロにして、ロ移しで赤ん坊にやったそうです。

 またこれは昨日聞いた話の受け売りですが、歯科医も千し芋のようなかたいおやつを子供に与えることを奨めているようですよ。ものをよくかめばあごが発達するし、脳への刺戟もよく、頭も良くなるそうです」

 ここまでくると山田さんの顔が和らいできた。そして「やってみますわ、なんとなく自信が出てきました」と喜んで帰って行った。

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干し芋の季節(1月31日)

 今当館1階の売店で1番売れているのは干し芋だ。正月前までは長崎県五島産のカンコロ餅がよく出ていたが、年明け後は干し芋の天下だ。黙っていてもこれだけは売れるし、うっかり切らそうものなら「なんで干し芋がないの!」と客に怒られてしまう。

 ところが困ったことに、ちょくちょく品切れになってしまう。わたしはだれがどこでどう作っているのかがはっきりしないものは仕入れない。ただそういう人たちは小量生産がふつうなのでストックが少ない。そのため今年の冬のように雨続きだと、たちまち品切れになってしまう。イモはあっても干せないからだ。

 今までのわたしは冷たいからっ風が大嫌いだった。それが干し芋を売るようになって、がらっと変ってしまった。晴天が続き、からっ風がビュービュー吹きまくるようになると嬉しくなってくる。「しめ、しめ、いい干し芋が来るぞ」と。

 当館が仕入れている干し芋は群馬県川場村五反田組合製の「春駒印」丸干し、静岡県磐田市の石橋商店製丸干しと平干し、そして茨城県勝田市の永井農芸センター製平干しだ。 芋を薄く切って干す「平干し」と違い、そのまま干す「丸干し」はなかなか乾かないので作り手が少ない。ただ味は丸干しの方がいいので、できるだけ丸干しを多くするようにしている。

 それが受け、くちコミで確実に客がふえている。それにしてもなんで干し芋の人気がこんなに高いのだろう、そう思って来館者に聞いてみると答えはさまざまだった。

 「なぜかしら? 冬になると食べたくなるのよね。夏に干し芋を食べたいとは思わないわ」

 「冬は寒いし夜が長いから、家の中でテレビを見る時間が長くなるのね。その時、ロになにか入れたくなるんだけど、太るスナック菓子はこわい。干し芋なら大丈夫、いくら好きでもそうは食べられないわ」

 「安いから。石焼き芋は高いわよ」

 「甘味が自然だから飽きがこない。自然食の代表のような食べ物だもん」

 「田舎を思い出しちゃう。懐かしい味よね」

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