その14


脱OL(平成8年1月18日)

 引き売りの石焼き芋と言えばオジサンたちの世界だが、所によっては変り種もいる。千葉県の館山市に昨平成7年の正月からそんな人が現われた。20代の若い女性の石川みどりさんがそれ。みどりさんは茨城県出身で、日立製作所に勤めていたという。ところがなぜかサツマイモの魅力に取りつかれてしまい、周囲の人たちの猛反対を押し切って焼き芋屋になってしまったのだという。

 それだけに本気だ。たとえばテープで流す売り声も、オジサン声の「おいも、おいも」とは違う。自分で吹き込んだ「ドングリコロコロ」の替え歌でやっているという。だれでも安心して買いに来れるようにという気配りからだ。

 美女で仕事熱心なみどりさんのことだ。たちまち町の有名人になり、商売も大繁昌という。ただ彼女はそれに甘んじているような人ではない。いも菓子、いも料理の専門店を持つのが夢だそうで、すでに着々と準備に取り掛かっている。今日、当館へ来たのもそのためという。

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焼き芋の産直(2月24日)

 栃木県の鹿沼市から渡辺正義という人が来た。50歳前後の人で近くの工場に勤めながら、1へク夕ール余の水田と10アールの畑を耕しているという。畑では手のかからないサツマイモを作っている。土質が合っているのであろう、うまいいもがたくさん取れるという。

 渡辺さんは働き者だ。土・日などの休日にブラブラしていることができない。春から秋にかけては野良仕事があるからいいが、冬はそれがないので困ってしまう。そこをなんとかしようと考えているうちに、焼き芋屋を始めることを思いついたのだという。幸い今秋から町の中のいい所に店を出せることになっているという。あとは開店に備えての焼き芋器の選択だ。

 渡辺さんは自信のあるいもを自分で焼き、「これはおれが作ったいもなんだ、だからうまいよ」と言いながら売りたいのだという。そうなると休日だけの商売になってしまうが、それでは客が承知すまい。人を傭って平日でも焼いた方がいいのではなかろうか。

 わたしは同じようなことを何年も前からやっている人を知っている。茨城県稲敷郡阿見町の飯野良治さんだ。飯野さんは40代の働き盛り、水稲とサツマイモを作っている専業農家だ。ある年のこと、精魂込めて作った自慢のいもを仲買い人に買いたたかれ、とてもくやしい思いをしたという。そこで自分で作ったいもは全部自分の家で焼いて売ることにした。

 幸い同家は広い自動車道沿いにある。その道の反対側に自分でログハウスを建て、中に特製の焼き芋器を据え付けた。そして車を数台停められる駐車場まで作った。いもを焼く係りは飯野さんの両親だ。まだまだ元気なので冬中、焼き芋小屋でがんばってくれている。

 客の多くは車で通りがかる人たちだ。「焼き芋の産直」なんてあまり聞かない。珍しいし、安い。その上うまいときては、受けないほうがおかしい。

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茅葺職人のアルバイ卜(2月28日)

 京都市の北、丹波高地のふもとに「かやぶき民家の里」として有名な美山町(京都府)がある。かやぶき民家が270戸も残っていて、その残存率は日本一という。今日はそこに住み着き、親方について茅葺きの仕事を教わっているという西尾晴夫君が来た。同君は京都の大谷大学の哲学科を出ているという。なんで職人になろうとしているこか分からないが、面白い青年だ。

 美山地方での茅葺きの仕事は春から秋までで冬はまったくない。冬は雪の日が多いからという。そこで茅葺き関係者は親方以下だれでもがアルバイトを探さなければならない。若者はスキーの指導員などになるが、西尾君は子供の頃から焼き芋が大好きだったので、この冬は石焼き芋をやってみたという。

 知人から道具を借り、軽4輪に積んだ。美山から京都までは雪道で、車で1時間半かかる。石焼き芋の燃料はプロパン。いもは徳島産のブランド品、「鳴門金時」。京都の市場で仕入れる。そして学生時代を過した土地勘のある京都市内を流す。

 西尾君は25歳。若いので客が安心するらしい。新米の焼き芋屋にしては良く売れたという。ただ路上での商売に対する警察の規制が厳しく、車をどこへ停めても警官に怒られる。これでは先は知れている。どこかの店先でも借りて「店売り」に変えるしかないと思い、いもの町、川越の様子を見に来たのだという。

 川越には引き売りの石焼き芋もあるが、店の土間でいもを焼いている所も何軒かある。「つぼ焼き」もあれば、電気式やガス式の焼き芋器を置いている所もある。まる1日かけて2人でそういう店を回ってからのこと、西尾君が面白いことを言った。

 「川越の焼き芋屋さんて、どこも女性がやってますね。石焼き芋だとオジサンです。それもどこのだれかも分からない人が流している。だからなじみになるまではなんとなく怖い。初めての人だと、いくら吹っかけられるか分かりませんからね。

 それと比べると店売りは強い。その上女性がやっているから一層安心です。見ていると『焼けているわよ』の一声で客はもうニコニコ、いくらとも聞かずに2本、3本と買っています。あれで100gいくらと最初から表示しておけば、もっと売れるでしょうね」

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石焼き芋の新商法(3月10日)

 東京の港区から来たという40代の婦人団体の一人が、くやしそうにこう言った。「焼き芋って高いのよね。この前、石焼き芋を買ったら2本で2500円も取られちゃった」 それを聞いた周りの人が、「そうそう。うちもやられちゃった」と同調した。

 わが国の商品は正札販売が普通だが、焼き芋はgいくらの表示が無い場合が多い。そのため法外な値段を吹っかけられ、にがい思いをする人が跡を絶たない。ところが最近、川越に軽4輪の面白い石焼き芋屋が現われた。マイクでこうやりながら町の中を流している。

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 昔ながらのオジサン声だが、これならだれでも安心して近付ける。バブル崩壊後の大不況で、焼き芋商法も変わりだしたようだ。

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