その18


サツマイモ再発見(平9年2月26日)

 NHKテレビの人気科学番組、「ためしてガッテン」は毎水曜夜8時からの45分間。今夜のそれは「サツマイモ再発見」だった。たいていの新聞の朝刊テレビ欄に紹介記事が出たので、朝から方々から電話が入った。「知ってるんだろうね。今夜NHKがサツマイモをやるのを」と。

 ディレクターの田中新さんが当館に来たのは正月早々だったし、その後も電話による問い合わせがあった。それで放映のことは知っていたが、どんな構成になるのかは分からない。それにNHKがサツマイモを本格的に取り上げるのは久しぶりだ。20年前の「ウルトラアイ」の「石焼き芋のルーツ」以来という。今なんでサツマイモなのだろう。サツマイモのどこをどう見直すのだろう。あれこれ想像しながら時間の来るのを待った。

 テレビが始まったとたんに「なるほどそういうものだったのか」とうならされた。サツマイモは「でもね」が多いものなのだという。「体にいい」、「おいしい」などのあとにすぐ「でもね」となり、「おならが出る」、「太っちゃう」、「石焼き芋を買っているところを友達に見られたら恥かしい」等々となるという。サツマイモにはすなおに喜んでもらえないところがあるという。

 その上まずいことに「ダサイ」、「貧しい」、「戦争」などというマイナスイメージがつきまとっている。飽食、美食の今の日本でプラスイメージとしては「へルシー」しかないという。そこでまずそのビタミンやミネラルの特性を盛んに強調していた。ただ期待していた食物繊維とヤラピンは素通りに近く、がっかりした。

 サツマイモには食物織維が多いように思われているが、特別多いわけではない。ただそのバランスがいい。食物繊維には水に溶けるものと溶けないものがある。サツマイモの食物繊維は両者がほぼ半々なので、人間の体内でとてもいい働きをする。サツマイモが最近機能性食品として注目されだした理由はここにある。

 ヤラピンはいもそのものにも、葉にも茎にもある。いもを輸切りにすると皮のすぐ内側に白い乳液状のものがでる。いもの茎を折っても同じものがでる。これがヤラピンで体にやさしい自然な通じ薬の働きをする。サツマイモが便秘に効くのはバランスのいい食物繊縫とヤラピンとの相乗効果によるとされている。

 番組の性格上、だれもが納得する実験をしてみせなければならない。何をやるのかなと思っていたら、電子レンジと石焼き芋との熱き対決だった。前者でチンしたいもと石焼き芋屋が焼いたものとを、東京の女子高校生50人に「きき酒」ならぬ「ききいも」をやってもらった。結果は石焼き芋の完勝。全員が石焼き芋の方がうまいとした。

 決め手は「あまさ」だった。サツマイモにはでん粉を麦芽糖に変える酵素、べータアミラーゼがある。これが活躍する温度は限られていて、摂氏65度から85度までの間。

 計器でいもの中心温度を測ってみたところ、電子レンジを「強」にしてチンした場合、その時間は1分半しかなかったという。一方、石焼き芋では9分半もあった。この大きな差が、あまさの差になったわけでまさに「ためしてガッテン」だった。

 ただ石焼き芋は冬だけのものだし、シーズン中でも石焼き芋屋がいつも近くにいるわけではない。一方、最近は「年中サツマイモ」で生いもが1年中出回っている。そうなると電子レンジも捨てがたい。そこでそういう時のための知恵を授けていた。

 レンジを「弱」にしてべータアミラーゼの活躍できる時間を少しでも長くする。いもも中心温度がすぐ高くなり過ぎてしまう細いものを避け、太くてまるいものを使う。こうすればかなりいい味になるという。

 今回の企画は科学ものとしては後半が異色だった。江戸時代のいも料理の再現と考察にかなりの時間を当てていたからだ。天明2年(1782)に百種類の豆腐料理の作り方を載せた『豆腐百珍』が出た。それが当ったため「百珍もの」のブームが起った。

 『豆腐百珍続編』(天明3年)、『大根一式料理秘密箱』(天明5年)、『鯛百珍料理秘密箱』(同)などの料理書が続々と出版され、寛政元年(1789)には『甘藷百珍』まで現われた。著者はいずれも大都市の文人で、なぜかぺンネームで通している。

 天明の農村は飢饉続きだったが京都、大坂、江戸などの大都市は別世界で料理文化が華やかに興っていた。サツマイモの原産地は中南米とされている。コロンブス以後、急に世界の暖地に広まった。わが国にも江戸時代の初に九州に入った。

 その後徐々に北上、天明期には関東でもかなり知られるようになっていた。とはいえ新来の作物であることに変りはない。その珍らしさ、初々しさが文人たちをひきつけたようだ。

 わが国でいもといえば大昔からヤマイモとサトイモだ。それらが「百珍もの」に登場せず、ニューフェースのサツマイモが取り上げられたのは、文化現象としても面白い。

 『甘藷百珍』には123種類のいも料理があり、奇品(63)、尋常品(21)、妙品(28)、絶品(11)に分けられている。番組ではその中から「奇品」2(まくりいも、いも衣)、「尋常品」3(いものじん、落葉いも、三杯づけ)、「妙品」2(ズズへイいも、パスいも)、「絶品」4(ハンぺンいも、かば焼きいも、ふはふはいも、塩焼き芋)の計11品を忠実に再現、そのいくつかを3人のゲストに試食してもらっていた。

 1億総グルメといわれる今日でもサツマイモ料理は貧弱過ぎる。蒸しいも、焼きいも、いも粥、天ぷら、大学いも、きんとん、そしてリンゴとの重ね煮ぐらいしかない。ところが200年前にすでに現代人がびっくりするほどいいものがたくさん考えられていたわけだ。

 なかでも惜しいのは「尋常品」。これは手のこんだ創作料理である「奇品」や「妙品」と違い、どこにでもあった普通のものだ。それさえもがほとんど消えてしまっている。ゲストたちも首をかしげ、残念がっていた。

 21世紀の世界は深刻な食糧難に陥いるといわれている。「飢え」と聞いて日本人の頭にすぐ浮かぶのはサツマイモだ。それに備えての優れた品種作りも、栽培技術の研究も大切だが、サツマイモをどうすればおいしく、楽しく、たくさん食べられるようにすることができるのか、という研究も急務だ。

 今夜はそういうことは一切出なかったが、いも料理の古典である『甘藷百珍』がこれから再認識されることは間違いない。時代の先を読み、本書をさりげなく紹介するとはさすがと感心した。

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