その32


ジャングルの中でのいも作り(平成12年10月11日)

  群馬県勢多郡北橘村から、奈良盛兵というお年寄が1人で来られ、こんな話をしてくださった。

 「わたしは渋川の近くの村の者です。百姓で今でもいろんなものを作っています。紫いもも作っています。 2年ほど前、新聞で川越にサツマイモの資料館があることを知りました。戦争中に南の島でサツマイモを作った話を、いつかそこの人に聞いてもらいたいと思っていました。

 わたしは大正5年生まれ。もう85歳です。さいきん仲が良かった戦友が次々に亡くなりました。それでこれはいかん、早く川越に行かなければとなりました。今朝6時に村を出ました。それから電車でここに来ました。

 わたしは昭和18年に兵隊に取られました。翌19年に赤道直下のハルマヘラ島に上陸しました。オランダ領だった島です。当時の日本軍はすでに敗け軍になっていました。島の上空には常に米軍機がいて、日本兵を見るとすぐ爆弾を投下しました。だからわれわれは空から見えないジャングルの奥深くに陣地を作りました。

 わたしたちの部隊は「建築隊」でした。建築閣係のすべての職人を集めた特別編成中隊で、350人ほどいました。その中にどういうわけか百姓が1人だけいました。それがわたしだったのです。  島に無事上陸できたものの、戦況から今後の補給は無いのが分かっていました。それで島にある食べられそうなものを探しました。

 幹からでん粉が取れるサゴヤシがありました。でもこれからそれを取るには手間暇がかかり過ぎます。サトイモと同類のタロイモもありました。これは大きくなるまでに時間がかかり過ぎます。部隊は短期間にたくさん取れるものを探していました。それに応えられるものはサツマイモしかないとなりました。これなら苗を植えて4か月で収穫できます。

 それで急いでサツマイモを作ることになり、百姓出身のわたしがその係に任命されました。幸い現地人がサツマイモを作っていました。日本のものと較べると味のないいもでしたがぜいたくなことは言っておられません。現地人からそれを種いも用としてもらいました。海岸線とジャングルとの間に、わずかな砂浜がありました。まずそこでいもを作りました。島に持ち込んだ米が底をついた時、そのいもが取れました。といっても兵隊の数が多かったので1人当たりのいもはわずかなものでした。握りこぶし大のいもの半分が1日分でした。

 これではしようがないのでジャングルの中にいも畑を作ることになりました。それには2つの条件を満たす必要がありました。ジャングルの上空から日本軍の動きを常に見張っている米軍機に分からないものであることと、太陽の光が十分当ることです。兵隊たちはそんなことができるのだろうかと思っていました。

 ところが将校の中に頭のいい人がいて、ジャングルの中の大木を一列に伐り倒せと言いました。建築隊ですからそういうことはお手のものです。すると昼なお暗いジャングルの底に太陽の光が射し込んでくるではありませんか。赤道直下なので太陽が長時間頭上にあります。それを利用したんですね。 ジャングルの中は湿地です。それでいも畑のウネをできるだけ高くするようにしました。こうして飢えをしのぎ切ったのです」

 奈良さんの話は今まで間いたことがないものだった。奈良さんがサツマイモ関係者に伝えたいと思われたわけがよく分かった。

  

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総合学習とサツマイモ(平成12年12月7日)

 農林水産省の調査によると、最近の干し芋(蒸し切り干)用のサツマイモ生産量は全国で4万トン。うち茨城産は3万トンとある。茨城県はこのような干し芋大県だが、それを県下一円で作っているわけではない。産地は限られていて、そのほとんどをひたちなか市と東海村だけで作っている。 そのひたちなか市の前渡小学校の鈴木洋子先生から、こんな電話を頂いた。

 「わたしは3年生の担任です。今年から始まった総合学習でサツマイモと取り組んでいます。地域の特色を活かしたもので、その学校独自のものとなれば干し芋しかない所ですからね。ただ始めてみると困まることがいろいろあります。サツマイモについての情報がありそうでないのもその一つです。川越にサツマイモの資料館があることが分かったのも、つい最近のことです。そちらにはどんな資料があるのですか?」

 先生のご苦労はよく分かる。「大変ですね」と言うと、「ええ、それはもう。でもやり甲斐もあるんです」 と、こんな話をしてくださった。

 「学校の周囲にも干し芋農家がたくさんあります。先週からそこで干し芋作りがいっせいに始まりました。いもを洗って蒸して、皮を取ります。それを薄く切って天日で干します。わたしもさっそく子供たちとそれを見に行きました。何軒もの家を回ってから、子供たちに感じたことを言ってもらいました。すると多くの子がこういうことを言うではないですか。

 『どこんちへ行っても干し芋を作ってるのはじいちゃんとばあちゃんだけだね。どうしてそうなの?』

 これにはハッとさせられました。なんて鋭い観察眼なのかと。日本の農村で今一番の問題は農民の高齢化と後継者難です。それをまだ9歳の子供たちがちゃんと見抜いているんですからね。」

 農林水産省の 『2000年世界農林業センサス』 によると、平成12年の日本の農業就業人口は389 万人。うち高齢者(65歳以上)は205万人(53パーセント)にもなっているという。年々増え続けていた高齢者の割合が、ついに5割を越してしまったということだ。

  話を元にもどそう。今年度から小中高の学校で「総合的な学習の時間」がスタートした。地域の人、もの、ことなどとの共生を求め、地域に根ざした総合的な学習を行うという、まったく新しいタイプの試みだ。 その中でサツマイモと取り組んでいる所となると小学校が特に多いようだ。それは当館に全国各地の小学校の先生や生徒から、さまざまな質間がたくさん来ていることからも分かる。

 その中には専門家でも恐らくハッとさせられるに違いない鋭いものがたくさんある。総合学習が早くも成果を挙げはじめている証拠といえよう。当館としてもこうした新しい動向に対応できるサツマイモ資料集を急いで作らなければならないと思っている。

 

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