その55


1本も買えなかったサツマイモ(平成19年1月8日)

 韓国ソウル放送の女性ディレクター、季さんが取材にきてくれた。さいきんは韓国でもサツマイモは健康食の一つとして見直され、人気がでてきているという。ただたべ方は焼き芋ぐらいのもので、ほかに目立つものがない。

 ところが日本は違う。いも料理にしても、いも菓子にしてもさまざまなものがある。その違いを母国の人たちに伝えるのが取材のねらいだという。

 季さんは日本で生まれ育ったので、日本言は上手だ。仕事が終ってから、サツマイモは好きかと聞いてみたらこんな思いがけない話になった。

 「自分も母も大好きだが、亡くなった父は大嫌いで見るのもいやだといっていた。父の出身地はチェジュ(済州)島。太平洋戦争中に日本に連れてこられ、関西の軍需工場で働かされた。そこで一番つらかったのは給食の量が少なすぎ、常に腹ぺこだったことだった。このままでは死んでしまうと思い、休日は食料の買い出しに当てた。といっても食料はすべて国の厳しい管理下にあったので、近隣の農村に行っても大根ぐらいしか買えなかった。

 本当はサツマイモが欲しかったのだが、これは農家の人にどう頼んでも売ってもらえなかった。仕方がないので収穫の終ったサツマイモ畑に入り、捨ててあるくずいもを拾った。それは小指ぐらいの細いいもばかりだった。宿舎に帰ると鍋に米を1つかみ入れた。それに拾ってきた細いいもを刻んで加え、うすいいもがゆにしてすすった。

 父によるとチェジュ島はサツマイモ畑が特に多いところで、いもなんかいくらでもあった。それが日本へきたら一本のいもも買えなかった。その時の惨めさ、くやしさは自分にもよくわかる」

 太平洋戦争末期の都会の人たちの食料の買い出しの話はよく耳にする。だが季さんのお父さんのように、体一つで見知らぬところへ連れてこられ、空きっ腹を抱えて働かされた人たちのそれを聞いたのは初めてだった。





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天ぷらなら紅赤(平成19年2月1日)

 川越農林振興センターの磯田祐一課長がやってきて、こんな話をしてくれた。

 「先日、川越の近くのあるところでサツマイモの試食会があった。行ってみると30人ほどいた。ほとんどが首都圏のサツマイモ聞係者で、その道のプロだった。

 10種類ほどのいもを焼き、片端から試食する。そして各人が自分の好みのいもを3種類あげる。その集計結果をみて『えっ、どうして?』と思わずつぶやいてしまった。

 上位はベニアズマ、紅小町、そして高系 14号系の「さわらっこ」。自分が期待していた紅赤は下から2番目というひどいものだったからだ。

 「紅赤」といえば戦前の『川越いも』であり、サツマイモの女王とうたわれた名いもで、蒸しいもにも焼き芋にも向いていた。

 それが戦後、次々に現われた新品種との競争に敗れ、幻のいもになりつつある。でもその食味評価がこれほどまで低くなっていたとは知らなかった。紅赤の扱いはどうしたらいいのでしようね」

 さいきん全国各地で伝統野菜の見直しが進められている。川越地方のそれは「紅赤」で、そこには紅赤をもう一度なんとかしたいという気運がある。

 昨年、三芳町川越いも振興会が紅赤100パーセントの「川越いも焼酎・富の紅赤」を世に出したのもその現れの一つだった。ただかんじんの食味評価が低いとなると手の打ちようがない。

 磯田課長の悩みはそこにあるようなので神山正久社長の考えを聞かせてもらうことにした。社長はサツマイモ料理専門の料亭「いも膳」の経営者であり、当館のオーナーでもある。年中さまざまないもを使いこなしている社長は、話を聞くと即座にこういった。

 「いものたべくらべの結果は調理法で変る。焼き芋で較べられたらあま味の薄い紅赤はほかのいもにかないっこない。負けるにきまっている。そのかわり天ぷらでやれば間違いなくトップだ。

 紅赤の火の通りは、ほかのいもよりはるかに早い。だからさっとあがる。それと肉質が抜群。きめがこまかく、口に入れるとふわ〜っととろけるように消える。このような食感のいもはほかにない。

 それだけではない。天ぷらは菓子ではなく料理だから、あますぎないほうがかえっていい。学校の通信簿で教科のほとんどが3だが、1科目だけ5の子がいたとしよう。紅赤なら天ぷらがその5。だからうちの店では紅赤は欠かせない」

 それを聞いて磯田課長の表情が少し明るくなった。





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女の石焼き芋屋(平成19年2月16日)

 当館には取材でマスコミ関係者がきてくれることが多い。わたしは相手が仕事が終ってからの一時、雑談をさせてもらうことにしている。思いがけない話がよくでてくるからだ。

 今日は東京の六本木に事務所があるという婦人記者が週刊誌の取材できてくれた。例により仕事後の雑談になった時、こんな話をしてくれた。

 「毎年、冬になると事務所のそばに女の石焼き芋屋さんが現われるんです。軽四輪に道具を積んでね。男だとなんとなくこわくていいたいこともいえないけど、おばさんなら大丈夫。なんでもいえちゃう。

 その人は客がくるとちいさく切った焼き芋をくれるんです。一たべてみて〜と。うん、うまいとなった時、困ることがあるのは大きさ。手頃のものがなくて大いもしかない日がある。 『困ったなあ、どれも大きすぎる』 というと、『じゃあ半分にしてやろう』 といって包丁で半分に切ってくれる。もちろん値段も半分にしてくれる。

 それを知っている人たちはおばさんの車がくるといっせいにそこに集まる。場所と時間? 地下鉄の乃木坂駅の前で午後の1時頃」

 さいきんはスーパーの店頭や店内でいもを焼き、安値で売っているところが多くなった。石焼き芋屋にとっては強敵のはずだが、このおばさんのやり方ならファンを逃すことはあるまい。

 

 

 

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