VIII 栽培技術
じゃがいもの栽培技術については、最終頁の引用文献で紹介したような多くの優れた専門書が出版されていますので、ここでは農家の方が栽培される場合に意外と盲点となっているのではないかと思われることを中心に「プロの作り方」としてまとめてみました。引用文献の関係上、北海道を想定していることが多いのですが、他の地域にも共通すると思います。
また、じゃがいもはプロの農家ばかりでなく一般の家庭菜園でもかなりの収量が得られます。以前は小学4年生で理科の実習教材になっていたように、学習テーマとしても最適ではないでしょうか。このようなケースに利用してもらえるように、「アマチュアの作り方」をまとめてみました。
1.プロの作り方
(1)土作りと輪作体系
全ての作物に共通しますが、やはりじゃがいも栽培の基本を支えるものは土作りです。ややもすれば、土作りがおろそかにされがちな現代農業では、有機質の減少と作土の緊密化により土壌中に耕盤層を生じますが、これに対して機械で深耕したり、土塊を砕いたり、排水施設を作ったりという物理的な対処のみに頼るのは誤りです。
基本は、堆肥を毎年、10a当たり1〜1.5t程度、長期間継続して投入することにより適正な作土を作ることにあります。堆肥が得られない場合にはイネ科や豆科作物の緑肥・収穫残渣をすき込みますが、できるだけ早い時期に反転耕を行い、後作物の作付けまでに分解させることが大切です。
分解が進まない時には細断や10a当り4s程度の窒素を散布して混入しますが、イネ科のすき込み材料はカリが多いため、カリの施肥量を半減することが大切です。また、根菜類の残渣をすき込む場合には窒素の残効に十分な注意が必要です。
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「完熟堆肥作り」のポイント
土作りと並ぶもう一つの基本技術が輪作体系の維持です。実際には圃場の大きさ、形、土壌条件などもまちまちであることから、理想的な輪作体系を組むことは難しいのですが、例えば北海道で、てん菜の後作のじゃがいもは問題があることがはっきりとしていながら、現地ではこのような輪作体系がかなり多く見受けられるのも事実です。
てん菜の後作のじゃがいもは、てん菜が多肥であるために窒素の残効で倒伏し、高いPHのためにそうか病が発生するなどの問題が生じてしまうのです。理想的な輪作体系は次のようなものです。
例1:麦 → じゃがいも →
とうもろこし(青刈り) → てん菜 →豆類
例2:じゃがいも → 麦類 → てん菜 → スイートコーン・デントコーン →
豆類
(2)種いもの更新
現状では、種いもの更新率は80%程度ですが、本来は100%を目指すべきでしょう。そして、疫病、黒あざ病、粉状そうか病、炭そ病、乾腐病、そうか病、軟腐病、黒脚病のチェックのためにも種いもの点検は不可欠です。
種いもは一般に株当り種いも切片重は50gとされ、大きいほど出芽が早く、生育も旺盛となりますが、十分に浴光育芽を施せば30gまでは生育に全く差はなく、小粒を全粒植として利用する方がむしろ有利です。
具体的には、種いもの貯蔵は3℃の一定温で施設貯蔵し、浴光育芽を開始する10日〜2週間前頃から10℃まで徐々に昇温し、出庫時に1〜2mmの芽長としておきます。6℃を超えると芽が動くため、土中貯蔵の場合には換気筒を立て、呼吸熱と水分を排出することが必要です。
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小全粒種いもの効果
(3)浴光育芽と茎数の調節
じゃがいも栽培において最も重要なのは植付け時です。ここでの最大のポイントが「浴光育芽」です。3〜4週間程度かけて植付時の芽長が約5mmとなるよう、低温と強光条件下で強い芽を育て、機械にかけても落ちない範囲で出芽促進効果を最大限に発揮させるものです。30〜60gの小全粒種いもでも十分な浴光育芽を行えば、株当り茎数を青果用、チップス加工用、でん粉原料用に最適の4〜5本に調整することができます。
注:「浴光育芽」という用語については、北海道内においても「浴光催芽」という言い方が多く、統一されてはいません。
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浴光育芽と浴光催芽、芽だしの違い
(4)植付時期と植付深度
じゃがいもは冷涼な気候を好むため、春作では晩霜害という制約要因はありますが、可能な限り早植えすべきです。しかしながら、実際には、北海道では同程度の耐冷性を持ち、しかも紙筒育苗・移植されるてん菜の後に、また都府県では指導層が推奨する時期の半月から1月も遅れて植付られています。
地温が10℃になり、圃場が乾いて耕起できれば植付すべきで、ソメイヨシノが咲くときには、出芽しているタイミングが必要です。また、多雪地帯では排水施設、秋耕、融雪促進、地温の上りやすい腐植質の多い土作りなどが必要になり
ます。
植付が深すぎると出芽遅延を招くため、季節風により表土が飛ばされる地域でない限り、3〜5pの浅植えが有利です。植付けに際しては、1cm深ければ1日遅れるという感覚を持ち、植付深度にバラツキがでないように注意してプランターを操作します。
(5)畦幅
密植ほど多収となりますが、十分な培土ができるよう早生品種で70〜72cm、中晩生品種で72〜75pとし、特に傾斜地では畦幅の不整に注意することが必要です。現実には、全国的には60p〜90pの畦幅で栽培され、合理性に欠けています。また、北海道では、てん菜、豆類、とうもろこし、じゃがいもを同一の畦幅(66p)としている例が一部にみられます。適正畦幅よりも狭いと培土が不十分で、緑化いもの多発や小粒化を招き、80p以上にすると単収の低下や巨大粒の発生
を招きます。
(6)株間
多くの栽培品種は約30pまでのいも着生分布を持つことから、これに株間を合わせることが必要です。実際には、プランターの調整ミス、種いも量の節約、早すぎる作業速度などのために、40pに近い株間となっていることがあります。25p以下にすると多収になっても小粒化して規格歩留が低下し、種いも使用量も増えてしまい、逆に35p以上では減収、巨大粒、変形・中心空洞、褐色心腐れ、二次生長、でん粉価の低下等の問題を生じます。70〜75pの畦幅と30pの株間の組み合わせで10aあたり4500〜4800株を整然と植えることにより収量を確保し、株当り茎数の調節により株当りいも数を適切にして(約15個)規格歩留を最大にするのが最も合理的な栽培法と言えます。
(7)施肥量
標準的な地力の圃場では、10aあたり窒素、りん酸、カリの投入量は、それぞれ7s、11s、9sを標準として良いと思われますが、土壌分析の結果をみて各成分量を調整すべきです。積極的に土作りを行えば、無肥料でも3t半ばの収量は確保できますし、多肥条件では茎葉が過繁茂して適正葉面積を超えるため早期倒伏を招き、必要な葉面積を保てません。標準施肥量とは単なる数値でいうべきものではなく、倒伏がなく、収穫期の
2ヶ月前に生育最盛期を迎え、収穫期に自然に枯凋するという「健全な生育」の型を作る量といえるのではないでしょうか。
(8)培土
出芽後3週間のいも肥大開始期(茎長は約25p)に、少なくともいもに10pの土が被るようにし(このためには70〜75pの畦幅が必要)、断面がカマボコ型で山と谷の差が25pになるようにします。これが遅すぎるとストロンを傷つけ、茎葉を折損して軟腐病や疫病を伝播させます。また、盛り上げる土の量が不足し、株ぎわが低い富士山型では培土の効果があがらず、緑化いも、塊茎腐敗、褐色心腐れ、その他の生理障害を受け、収量、でん粉価が共に低下します。かまぼこ培土機は多湿条件では、壁塗り状になって後にひび割れを生じ、乾燥気味の時には培土が崩れるという欠点があります。このため、畦間の土を12pの深さまで柔らかくするため、カルチベーターをかけるか1週間前に半培土をしておくなどの工夫が必要です。
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培土の効果
(9)防除
一般に多肥の傾向にあることに加え、多肥作物の残効や高い土壌酸度などにより、葉の展開が良すぎて受光率が悪く、生育が軟弱になって疫病や軟腐病が急速に蔓延するケースが多く見受けられます。疫病防除の薬効は顕著で、初発を見逃さなければ多発することはないのですが、軟腐病は種いも伝染ばかりでなく土壌伝染すること、病原体が細菌であることなどから防除効果があがりにくいものです。北海道では、このほかに菌類病として黒あざ病、粉状そうか病、乾腐病、菌核病、灰色かび病、半身萎凋病、細菌病としてそうか病、黒脚病、青枯病などがありますが、無病種いもの使用、消毒の徹底、適正な輪作の実施により大きな被害は回避できます。
(10)収穫から選別まで
収穫作業から消費者の手に渡るまでの間に生じる傷が問題になります。米国でははるか以前に原因の分析と対策が講じられ、実施されているのに対し、我が国では取り組みが遅れています。ディガやハーベスタは大型になるほどいもの移動が激しく傷つきやすいため、コンベヤの揺れを適度にして固いところはゴムのあて物をするなどし、20p以上落下することがないように調整します。
コンベアー上で土が振るわれる程度は、最後にタンクにたどり着いた時に振るい終わるように調整し、土がクッションとして働くようにすることが肝心です。打撲傷は10℃以下で発生しやすいため、収穫作業は10℃以上の条件で行い、低温貯蔵中に選別するときは、いもの温度を10℃以上に上げてから行えば、打撲傷の発生を押さえることができます。
また、暖地の秋作では降雨後に収穫すると、いもの内部の膨圧が高くなっているので、少しの衝撃でもいもに亀裂ができ易くなります。
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収穫以降に発生する傷の種類
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切り傷 |
掘取刃の調節に左右されるが、いもが深い場合や土が固くて培土が浅い場合にも発生する。放置すると傷から侵入した乾腐病・炭そ病、疫病や軟腐病が貯蔵中に発生する。 |
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皮むけ |
固いところにぶつかって周皮がむけたもので商品価値が低下し、呼吸による減耗量を大きくする。 |
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割れ傷 |
固くて角のあるところにぶつかって割れたり、一部が損傷した傷で除去しないと腐敗する。 |
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打撲黒斑 |
周皮から1p内外の部分が黒変したもので、衝撃を受けて内部にメラニン様の黒色物質が生成されたもの。外観からは判別できないため、食用と加工食品用では大きな問題になる。 |
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爪あと傷 |
ぶつかった時に三日月状で1〜2pの爪を押したような傷ができ、その時にはわからないが4〜10日後に、肉眼でみえるようになる。 |
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圧偏傷 |
ばら積みの時、特にでん粉価の低いものを積み過ぎると下層のものが重さでくぼむ。 |
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収穫後の取り扱いで生じた傷を18℃前後と90%程度の多湿条件で5〜10日程度かけてキュアリング処理し、傷口や表皮の下にコルク層を形成させる。 |
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温度は種いもは3℃、食用は5℃、加工食品用は7〜13℃、湿度は90〜 95%で本格貯蔵する。 |
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種いもの場合には、出庫する10日前ほどから、後の浴光育芽のため徐々に10℃程度に昇温する。加工食品用では、低温貯蔵中に増加した糖分を18℃程度まで昇温させることにより低下させる(リコンディショニング) |
《注》
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1) |
標準的な栽培方法であり、それぞれの条件(土壌のpHや広さ、土質など)にあわせて工夫することが必要です。 |
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2) |
鉢や大型のプランター、肥料の空袋でも栽培できます。この場合には、露地植えよりも元肥を少なくし、種いもの3倍程度の深さに植え、葉が開いて来る頃から液肥(ハイポネックスなど)を週に1回くらい与えます。肥料の空袋(20s入)の場合には底に近いところに水抜き用の穴を開けます。いずれの場合にも、水管理には十分注意(やり過ぎは禁物)するのがポイントです。 |
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3) |
じゃがいもはナス科に属し、連作はできませんので、少なくとも3年は圃場をあける(植付場所を変える)ことが必要です。 |
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4) |
芽が出そろったころに、茎数を2〜3本にするように指導されている例が多いのですが、実際には4本程度の茎数として、いも数を確保する方が賢明です。 |
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5) |
スーパーなどで売っている青果用のじゃがいもは、ウイルス病などによる減収がみられますので、必ず検査合格証のあるものを使うことが必要です。 |
(2)出芽から開花まで
出芽後3週間で茎長約25pが基準で、茎頂部に未展開葉に埋もれた花蕾が見えます。この時期が肥大開始期で、本培土の適期です。株の生育むらが大きいと、収量、品質、規格歩留りに大きな影響を生じます。この時期に土壌の窒素・水分の過多、高PH、高温、寡照だと肥大開始が遅れます。
(3)開花から最大生育期、黄変期まで
出芽後、約5週間で開花が始まり、早生種では出芽後6〜7週間で生育の最大期を迎え、第2花房が咲くか、咲かないかで生育は止まるのが正常で、茎長は50〜60pが目安です。中晩生種では第3花房が咲くか、咲かないかで生育が止まるのが正常で、茎長は70〜80pが目安です。
(4)茎葉が90pを越えて過剰な葉面積となると簡単に倒伏し、その後も窒素が供給され続ければ茎の先端だけが立っていつまでも緑葉を保ち、黄変せず、成熟期を迎えないで収穫することになります。
倒伏し、第3〜4花房が咲いているような圃場では、施肥量過多や前作物の施肥の残効が原因となっていますので、輪作体系の見直しや土壌診断などを行い、施肥改善を検討しましょう。
(5)でん粉価は塊茎肥大開始期には8%に達しており、その後10日に約1%の割合で上昇するのが正常です。