IX じゃがいもと食生活

1.じゃがいもの歴史と食文化
(1)じゃがいもの原産地であるアンデス地方には何千もの品種があり、様々な用途に使われています。500年前にヨーロッパに持ち出されたのは、実は皮肉なことに、いわば「大きくてまずい」品種であったようです。
 その後、育種や栽培技術の改良によりエグ味の少ないじゃがいもが生産されるようになるまでに300年以上もの年月を必要としました。しかし、その結果、それまでは『貧者のパン』といわれ、貧民の食物であったものが立派な一人前の『野菜』となり、一般家庭の食卓にのぼるようになったのです。
 そもそもヨーロッパでじゃがいもが普及したのは主食としてよりも、越冬用野菜(ビタミンC供給源)として優れていたためなのですが、19世紀に入ると魚、乳製品との組み合わせで使われるようになりました。そして現在では、アンデスについで多くの品種が出まわり、しかもじゃがいも料理の種類はアンデスをしのぐほどになっているのです。

(2)我が国へは南回りの航海食として16世紀末、北回りの越冬食として18世紀に渡来しました。しかし、我が国はヨーロッパと異なり、アジアモンスーンで水田地帯です。そのため、水田の裏作として栽培されたじゃがいもは梅雨時に収穫されるため、どうしても水分が多く、腐り易くなります。
 ですから、もっぱら味付きの煮物にされることが多く、腐敗防止のために天日乾燥を行うのでアルカロイドが生成してエグ味が強く、ゆでいも(アルカロイドが溶出)、厚皮むき(アルカロイドは皮層に多い)としての利用が主体となりました。「新じゃが」が好まれるのは掘りたてでエグ味がないからなのです。

2.これからのじゃがいも料理
(1)ヨーロッパでは、じゃがいもをおいしく食べるために様々な工夫がなされていますが、なかでもビタミンCを増やす料理法が定着しています。また、北アメリカのポテト産業では用途別に品種、産地が分けられ、比重、サイズ等でも区分されるなど、合理的な利用・調理が実践されています。

(2)ところが、我が国では残念なことに必ずしも上手な使い方がなされているとはいえないような状況にあります。ゆでいも厚皮むきなど、グリコアルカロイドを除去する調理法が普及した結果、皮の部分に含まれる「おいしさ」を活かしたベークドポテト、ふかしいも、皮付小芋のスープ、フライ、ソテーなどのメニューが普及しませんでした。しかし、本当はじゃがいもの栄養分は皮の近くにあるのです。

(3)じゃがいもをおいしく食べるにはその料理に合った品種を選び、また逆にその品種に適した料理を「使いこなす」ことが必要なのではないでしょうか。例えば従来のイメージは『肉とじゃがいも』、『バターとじゃがいも』というような固定観念があったように思うのですが、これからは『魚とじゃがいも』など、我が国独自の新しい料理方法、さらには食文化が生まれる可能性があるのではないでしょうか。

○ じゃがいも料理の区分別適品種一覧
用途
適品種例(肉色)
求められる条件

粉ふき
コロッケ
マッシュ
ポテトサラダ

男爵薯、ワセシロ
ベニアカリ
キタアカリ(肉黄*)
コナフブキ($)

味、風味よく、粉質
でん粉価14%以上。コロッケは白肉が好まれる。

*:

ビタミンC多く,リヨネーズ、電子レンジ料理に向く

$:

皮付、おろしてお好み焼き

和風サラダ
カレーライス

さやか、とうや
花標津、メークイン(肉淡黄)

煮崩れ少ない、卵形。目浅い

シチュー
煮物(肉じゃが等)

とうや、デジマ、ニシユタカ、アイノアカ、普賢丸

煮崩れ少ない、目浅い、調理後黒変なし

ポテトチップス
いももち

ワセシロ(夏〜秋)
トヨシロ(秋〜冬)
アトランチック(〃)
ノースチップ、ヤンキーチッパー

還元糖少ない
でん粉価15%以上
形は球、目や尻が浅い

フレンチ・フライ
ハッシュドポテト

ホッカイコガネ(黄)
ムサマル(黄)
トヨシロ

還元糖少、形が長く大きい、味よくく水分少(でん粉価15%以上がよい)
調理後黒変少ない。できれば肉白。

焼きいも
ベークドポテト

エニワ、ワセシロ
メークイン(淡黄)
キタアカリ(黄)

目が浅く、味がよい

缶詰
ホールポテト

マチルダ(淡黄)
男爵薯

粉質,煮崩れ少ない,小粒,球形


でん粉

コナフブキ
紅丸
エニワ
アスタルテ
サクラフブキ
アーリースターチ

でん粉価が高く、いろいろな病気に強く作りやすい。
でん粉を糊にしたとき、よく粘り、低温で糊になる。
でん粉の粒子が小さくなく、白度が高い。
コナフブキはコロッケ向き。

焼酎

コナフブキ

風味よく、でん粉価が高い

注:

次ページともに浅間和夫氏(ホクレン種苗園芸部市場販売課主任技師)提供資料を基に編集したものである。


○ じゃがいも品種別の適料理一覧
品種
適する料理,特徴と欠点

1 男爵薯(男爵)

水煮(粉ふき)、コロッケなどひととおり使える。
目が深く、歩留り劣る。大いもに空洞が出やすい。

2 ワセシロ(伯爵)

男爵薯に準じる。新じゃがは油加工に向く。越冬後は粘質増加。煮上がりが早いので、煮すぎないように注意。

3 メークイン

肉じゃが、シチューなど煮込み料理、カレーライス用。
コロッケなど、油で揚げる料理には適さない。

4 とうや(黄爵)

肉は黄色。煮物、スライス(和風)サラダ、リヨネーズなどの業務用。剥皮黒変、水煮後黒変なし。

5 マチルダ

淡黄肉,卵程度の小粒。ホールポテト,サラダに向く。
チップスやフライには適さない。

6 キタアカリ

肉黄色、やや粉質。サラダ、コロッケ、スープ、皮付きで電子レンジで食べるのがお薦め。ビタミンCが多い。

7 さやか

卵形、肉白。目浅く、剥皮黒変少なく業務用。スライス
(和風)サラダに向く。えぐみの原因となるグリコアルカロイド少ない。大粒で加工歩留まりが高い。

8 ベニアカリ

赤皮、白肉、粉質でコロッケやマッシュドポテトに適する。パンケーキ、お好み焼にも可能、ビタミンC多。

9 農林1号

水煮後黒変するが、粉ふき、マッシュドポテト向き。

10 ホッカイコガネ
(コガネメーク)

還元糖が少なく油加工に適し、形も長いのでフレンチフライ向き。肉はやや粘質で黄色。

11 トヨシロ

ポテトチップ、フライドポテトに向き、肉白。やや粉質で煮くずれは中程度、水煮後黒変は少ない。

12 ムサマル

肉は淡黄色。形は上の二つより肥満体。
フレンチフライの歩留り高く、油加工に適する。

13 コナフブキ

でん粉用品種で極粉質、水煮後黒変多い。焼酎に最適。
皮付きでおろしてのお好み焼き、コロッケにも適する。

14 紅 丸

でん粉原料用品種で極多収、肉維管束部が赤に着色。
越冬後に甘くなり、煮物にも使える。

15 エニワ

でん粉用品種で、広く使えるが肉中心に空洞が多い。メークイン同様に緑化いもが多い。

16 デジマ

肉じゃがや煮物、味噌汁の実、揚げジャガに適する。肉質はやや粉質、少し煮崩れする。

17 ニシユタカ

煮崩れしないのでカレーやシチュー等の煮込み料理に適する。粉吹きいもやコロッケには適さない。

18 アイノアカ

癖がなく、ほとんど煮崩れしないのでカレーやシチュー、洋風肉じゃが、ソテー、グラタンに合う。皮付ポテトチップスやシャキシャキサラダにも使える。

19 普賢丸

白身魚とのグラタン、粉吹きいも、マッシュポテトのサラダ、ジャガイモピラフ、コンソメスープ等に適する。還元糖が多く、ポテトチップスには適さない。

20 十勝こがね

煮物やフライなど万能。家庭での調理用に最適。冷めてからでも美味しいのがポイント。

21 ユキラシャ

マッシュポテト、コロッケ、グラタンなどに適する。煮崩れやすいので煮物には不適。低温で貯蔵すれば翌年の夏まで使用可能なほど長期に貯蔵できる。

22 スタークイーン

煮崩れが多いので煮物には向かないが、あっさりした味わいでほくほく感があり、コロッケ・サラダに向く。

23 インカのめざめ

ホールでベイク。ホイル焼き、冷たいスープのビシソワーズ、独特の風味がありお菓子にも適する。低温で貯蔵すると蔗糖が増加してとても甘くなる。常温で貯蔵するとすぐに芽が伸びる。

24 インカパープル

シャキシャキサラダ。ポテトチップなど紫色を生かした料理に適する。アントシアニン色素は抗酸化能などの機能性を有する。加熱すると紫色が薄くなるが、冷めると色が戻る。高でん粉で煮崩れしやすい。

25 インカレッド

インカパープルと同じように赤色を生かした料理に適し、同様な機能性を有する。でん粉価が低く煮崩れないが、味はやや淡白すぎる。加熱しても退色が少ない。

26 花標津

煮崩れが少なく、舌触りがなめらかで煮物、サラダ、赤皮の特徴を生かした皮付きベークド・ポテトなど幅広い用途に利用できる。チップ・フライには適さない。