<要約>
米国北西部のジャガイモの今年の収穫量は、ワシントン州、アイダホ州、オレゴン州の三州とも史上最高を記録し、生食用ジャガイモの価格は1995年の約三分の一に暴落した。コロンビア・ベースン地方の95年の疫病防除費は30百万ドルに昇り、94年の4倍近くという調査結果も出ている。又、疫病の発生予察のため、オレゴン州南東部の試験場ではコンピューターを利用したリスク・ナンバーを出している。
<本文>
1. 米国北西部のジャガイモ生産
ワシントン州のジャガイモの生産量はアイダホ州についで全米第二位だが、単収では世界一位を誇り、過去三年間の単収の平均は1エーカー当たり575百ポンドである(1996年全米平均は359百ポンド)。この主な理由は、州のジャガイモの産地、コロンビア・ベースン地方の気候的条件による。この地方の無霜期間は150日から190
日で、4月、5月の気温は発芽・出芽に適し、結しょ期の高い気温も理想的である。年間降水量は7インチ以下で、スプリンクラーによって灌水、施肥が適量に調節できるのも利点である。
この気候のため、ワシントン州のジャガイモはサイズが大きく澱粉価が高いので、加工用、特にフレンチ・ポテトに向いている。ジャガイモの加工は1963年頃始まったが、その当時は生食用が49%、業務用(澱粉)が29%、加工用が22%であった。今日ワシントン州産ジャガイモの87%は加工用、13%は生食用である。加工用ジャガイモのおよそ80%はフレンチ・ポテトに加工される。現在41の生食向け集出荷場、15の加工場が州内に位置している。
ワシントン州で生産されるジャガイモの品種の82%はラセット系で、1995年に作付けされた品種の内訳は、ラセット・バーバンク(61.1%)、シェポディー(13.7%)、ラセット・ノーコータ(11.8%)、レンジャー・ラセット(6.4%)、その他のラセット系(2.6%)となっている。
ワシントン州の生食用ジャガイモは、カナダ、香港、シンガポール、グアム、マレーシア等に輸出され、加工品は、日本、韓国、台湾、香港、シンガポール等、主に環太平洋諸国30ヶ国に輸出されている。冷凍フレンチ・ポテトの輸出は、95年37万トン(米トン)に昇り、これは78年の16千トンの23倍以上であった。
1996年のワシントン州ジャガイモの収穫量は、901.6億ポンドと予測され、95年の808.5億ポンドの12.5%増で、94年の最高記録889.2億ポンドを凌いでいる。収穫面積は163千エーカーで、95年の147千エーカーから11%増で、収量、品質は平年より多少高めと報告されている。生育期初期に気温の高い日が続き、時には褐斑病、空洞病の懸念もあったが、96年は問題になっていない。
アイダホ州南部では、泥土のため春の播種が遅れ、6月半ばの降霜で発育は遅れたが、夏は高温乾燥の理想的な天候が続き、96年の収量、品質は平均以上と報告されている。アイダホ州の今年の収穫量は、これまでの最高記録1388億ポンド(1994年)を上回り1399.6億ポンドで、95年の1326.6億ポンドから6%増加している。収穫面積は408千エーカーで、95年の2.5%増であった。
オレゴン州南部で史上最高気温を記録した後、早霜の降りた地域もあったが、収量は平均並、サイズは小さめ、品質は良好と報告されている。オレゴン州のジャガイモの生産量は全米第三位だが、96年の収穫量は史上最高を記録し319億ポンドで、95年の248億ポンドより29%上回っている。以前の最高記録は76年の289億ポンドであった。収穫面積は64千エーカーで、95年より20%増加している。
1996年の全米のジャガイモの収穫量の見通しは4480億ポンドで、95年より11%、94年より5%増加している。コロラド州、ウィスコンシン州でも史上最高の収穫で、この全国的な供給過剰のため、生食用ジャガイモの市場価格は、95年の3分の1近くまで落ちている。11月12日現在、貯蔵用ジャガイモは100ポンド当たり3ドル、品質の最も高いジャガイモでも100ポンド当たり3.50ドルであった。加工用ジャガイモは契約栽培で、トン(米トン)当たりの価格は95ドルから100ドル(100ポンド当たり4.75〜5.00ドル)で、95年はトン当たり88ドルであった。
2. 疫病防除費用の調査
1995年のジャガイモの疫病防除費用の調査が、ワシントン州立大学研究者、普及員2名、オレゴン州立大学研究者によって行われた。この調査にはワシントン州、オレゴン州両州コロンビア・ベースン地方、41人の生産者が参加した。
早生、中生のジャガイモの品種に対する、一農場当たり一年間の殺菌剤散布回数は2回から10回で、平均して5.8回であった。晩生の品種に対する散布回数は6回から18回で平均して9.7回である。早生、中生品種の殺菌剤と散布費を合わせた1エーカー当たりの費用は平均109ドルで、晩生品種のこの費用は1エーカー当たり平均181ドルと計算されている。最も頻繁に使用された殺菌剤はブラボー ( Chlorothalonil )で、全体の35.8%であった。
94年の早生・中生品種の散布回数は平均2.0回、殺菌剤・散布費は合わせて1エーカー当たり26ドルで、晩生品種は散布回数平均2.5回、殺菌剤・散布費は1エーカー当たり48ドルであった。
95年にワシントン州ジャガイモの95%は収穫前、乾枯剤(茎葉を枯らす薬剤)が散布されたが、94年乾枯剤の使用されたのは67%であった。95年の乾枯剤と散布の費用は、1エーカー当たり平均34ドルである。オレゴン州のラセット系の晩生の品種は、95年、94年共に100%乾枯剤が使用されたが、早生・中生の品種は94年に乾枯剤は全く使われていない。
95年のジャガイモの収量は、94年と比較してワシントン州で6%、オレゴン州で4%低かったが、これは疫病が大きな要因の一つというのが生産者、加工業者、コンサルタント、普及員の間で意見が一致している。収量の減少は疫病発生の直接的被害よりも、収穫前の乾枯剤早期使用が多かったためと見られている。晩生の品種に対して乾枯剤を使用した場合、薬剤を使用しない場合と比較して、約5%減収の可能性がある。
疫病の感染したジャガイモの貯蔵は、市場に出せないだけでなく、軟腐病 (エルビニア菌による)等の二次的な病原菌による経済的損害の恐れもある。出荷業者による検査、貯蔵庫の管理、モニター等、間接的費用も生産費に加算されることになる。これらの疫病による貯蔵庫内の損失や間接的費用は、オレゴン州で約3百万ドルと報告されている。
コロビア・ベースン地方の95年の疫病に対する防除費の総額は、3千万ドル近くに昇った。この内ワシントン州コロンビア・ベースン地方北部の殺菌剤・散布費は8.3百万ドル、同南部は13.2百万ドル、オレゴン州3.8百万ドルであった。94年のコロンビア・ベースン地方全体の殺菌剤・散布費総額は、3%収穫面積が高いにもかかわらず6.6百万ドルで、95年には前年より18.7百万ドル多く殺菌剤散布費用がかかったことになる。
3. 米国北西部のジャガイモの疫病対策
1840年代のアイルランド大飢饉を引き起こした疫病は、乾燥した米国西部では問題ないと最近まで考えられていたが、1993年にオレゴン州で初めて発生している。より悪性の系統も出現し、気候条件も疫病の広がりに貢献している。疫病の最も発生しやすい条件は、気温摂氏25.5度以下、湿度90%以上と言われている。
オレゴン州マルヒュア郡試験場では、生産者、アイダホ大学研究者との協力で、8ヶ所の観測所を設け、ジャガイモの疫病の監視をしている。収集された天候のデータは、「ブライト・キャスト」と呼ばれるコンピューターのソフトに通され、自動的に疫病リスク・ナンバーが算出され、週に2回生産者に提供されている。例えば、リスク・ナンバー15は疫病が7日から10日の間に発生する恐れがあることを意味し、生産者は予防手段として殺菌剤を散布することができる。フリーダイヤル、ファックス、ホームページ、電子メール等、新しいテクノロジーも積極的に採用され、フリーダイヤルは4000回、インターネットのホームページには2000のアクセスがあった。
マルヒュア郡では、低温の湿った天候のため疫病の発生が懸念されたが、殺菌剤による早期予防のため蔓延は避けることができた。殺菌剤のコストは、1995年は1エーカー当たり約150ドルであったが、96年は1エーカー当たり約40ドルに押えられている。これからの目標は、予報を更に正確にするため、ソフトウェアの改善を図ることで、湿度探知機を増やす考慮もされている。
疫病対策は収穫期間を通して行われる必要がある。疫病菌は茎葉無しでは生存しないため、ジャガイモの茎葉を完全に枯らすことが疫病の予防につながる。収穫中ジャガイモが感染した茎葉と接触して疫病の感染する場合もあるので、収穫前に茎葉が枯れていることが重要である。このため収穫3週間前に茎葉を枯らすことが望ま
しいとされている。茎葉を枯らす手段として薬剤、機械、自然(降霜)による方法があるが、効果に差があるかどうかのデータは出ていない。
疫病の発生した圃場は、ジャガイモの茎葉を枯らした後でも、殺菌剤を散布する必要のある場合もある。96年の疫病に感染されたジャガイモが越冬し、97年の疫病を引き起こす事もありうる。ワシントン州の調査によると、収穫後95,000のジャガイモが圃場に残されていた。これは1平方フィート当たり平均2.2個以上のジャガイモが残っていた計算になる。圃場に残されたジャガイモの66%は土壌の深さ2インチ、28%は2〜4インチ、6%は4〜6インチの深さに残っていた。浅い方が低温によって枯れる可能性が高い。
アイダホ州南西部で、秋の耕起が自然発生の本数にどう影響するかの調査も行われている。95年に14の圃場が評価され、一圃場から10ヶ所、1平方メートルのサンプルで自然発生の本数が調べられたが、多いところでは1エーカーに27,000本見つかっている。95年秋、はつ工板プラウのかけられた圃場は、耕起しない圃場と比較して、自然発生の本数は4倍以上であった。このため、収穫後秋の間、はつ工板プラウはかけるべきでないと勧められている。
<<参考>>
アメリカのコーネル大学において疫病の進展過程の予測システムがインターネットで公開されています。
http://ppathw3.cals.cornell.edu/arneson/contents/lateblit.html
日本いも類研究会 ニュースレター第6号 1997.7.2 (計6枚) 次回の発行は7月の予定です。