] 栽培技術
さつまいもは、たいへんポピュラーな作物で、プロの農家ばかりでなく小学校などの教材としても栽培されていますし、一般の家庭菜園でも根強い人気があります。さつまいもの栽培技術については、最終頁の引用文献で紹介したような多くの優れた専門書が出版されていますので、ここでは一般の方にも分かりやすいよう、ごく簡単にポイントをまとめてみました。
1.育苗
(1)種いもの条件
あらかじめ品種の特性を十分に調査して栽培目的にそった品種を選定する。種いもは、形、皮色、揃いなど品種の特性をよく表していること、無病健全であること、200〜300g程度の適度な大きさであることなどに注意して種いもを準備する。
(2)種いもの量
栽培品種によって必要量は異なるが、一般には10a当たり40〜80sの種いもを準備することが必要である。品種によって、萌芽性、萌芽数、苗の伸長速度に大きな差があり、例えば農林1号と高系14号とを比較すると、同時期に育苗を始め、植付けを完了するためには、後者は前者の3倍の種いもが必要となる。また、大きな種いもや狭い苗床の場合、床土が不良、採苗時期が早く採種回数が少ない場合、植付け本数が多い場合は多量の種いもを準備する。
(3)種いもの消毒
無病の種いもを確保しても、貯蔵中に黒斑病や低温、むれなどに犯されていることが多いので、必ず消毒をして利用するのが原則である。消毒には、温湯消毒法と薬剤消毒法があり、前者は47〜48℃の温湯に正確に40分間浸す。後者は、ベノミル剤等を利用する。
(4)催芽処理
種いもが萌芽原基から萌芽するまでは高めの温度と適当な湿度を与え、萌芽後は比較的低い温度で育苗し、良質健苗にする。萌芽は適度な温度と湿度があれば数日で終了する。個人的な小規模催芽には、イネの育苗器を利用すると簡単であるが、集団・共同で行なう大規模催芽処理には、キュアリング貯蔵庫を利用する。
催芽温度は品種によって異なるが、概ね30℃前後であり、3〜5日間の処理で芽が10mm程度の長さをめやすとする。
(5)苗床作り
植付け時期から苗床作りの時期を決める。苗床の種類によって1週間程度の幅があるが、種いも伏込みから第1回の採苗までの標準的な育苗日数は40〜50日である。
(6)伏込み
種いも頂部の高さをそろえ、大きい種いもは床温の高い中央部に、小さい種いもは苗床の周囲の比較的低温部に、尾部を床土の中へ15度程度の角度になるように伏せこむ。伏込み後は、頂部が隠れる程度に覆土し、微温湯で充分に潅水する。
覆土した上に燻炭を1u当たり5〜7リットル散布し、その上に放熱と乾燥防止を兼ねてわらで床面を覆う。
(7)苗床の施肥
施肥量は、床土の肥沃度によって大きく異なり、露地苗床や冷床苗床のように、普通の畑土を利用する場合は、概ね1uあたり堆肥6s、窒素20g、りん酸10〜15g、カリ15〜20gを基準とする。前年秋に準備した肥沃な床土を使う場合には、特に肥料を施す必要はなく、苗の生育状況をみながら追肥する。新たに苗床を作る際の床土は堆肥を混合し、1u当たり窒素100〜150g、りん酸100〜150g、カリ150〜200g程度を施用する。
(8)育苗管理
苗床は萌芽するまでは比較的高温に管理し、萌芽後、生育中は日中22〜25℃、夜間18℃程度とする。萌芽して生育が始まれば、徐々におおいを取り除き、苗長5cm程度では日中2〜3時間、10cm程度ではおおいを除いて日光を十分に当てる。床土の水分は手で固めた土が崩れない程度の70%前後が適切である。
追肥は、苗の生育をみながら窒素を1回に1u当たり5〜10gを上限に施肥する。なお採苗する3日前に尿素1%液を1u当たり1.0〜1.5リットル散布すると活着が早まり初期生育が良好となる。
育苗中には軟腐病、黒斑病、ウイルス病、蔓割れ病の他にイモコガ、ナカジロシタバなどの被害があるので以下の表に示したような方法で防除に努める。
(9)採苗
萌芽から成苗までの日数は、品種や苗床の種類などによって異なるが平均すれば40日前後であり、普通、苗長25〜30cmで7〜8節、葉が充分に展開しているものを成苗とする。採苗は、ナイフなどで地ぎわの1〜2節を残して1本ずつていねいに切り取る。
採苗回数は、育苗法、苗床面積、栽培面積などで左右され、早掘り栽培などでは、3〜4回、普通栽培では5〜6回の採苗が普通である。品質は最初の苗よりも2〜4番の苗の方が良質で、5回目以降は繊維が増えて品質が劣化する。苗はベノミル剤や温湯消毒によって消毒する。苗は風のない日陰で4〜5日、湿度があれば1週間程度は保存できる。
○
苗床の種類と採苗(第1回)までの日数
|
タイプ |
特 徴 |
日 数 |
|
露地苗床・冷床苗床 |
西南暖地向き。暖かい場所で自然の熱を利用して育苗。省力・低コストだが、日数がかかり、萌芽ぞろいも悪い。 |
|
|
ビニール利用冷床苗床 |
冷床苗床にビニールフィルムを被覆して苗床の気温地温を高めたもの。簡易な醸熱温床との併用で関東地方まで利用が可能。 |
|
|
催芽ビニール冷床苗床、催芽ハウス利用苗床 |
種いもを催芽して、ビニール冷床やハウス内苗床に移植する。苗床を早めに作り、苗床温度を高めておくことがポイント。 |
|
|
醸熱温床苗床 |
稲わら、麦稈、落葉、堆厩肥、米ぬかなどを踏み込んで発熱させ、高温条件下で萌芽育苗する。早期植付にも対応可。 |
|
|
電熱温床苗床 |
温床線の電熱で温度を保持して萌芽・育苗する。容易に萌芽、育苗適温が得られ、設備費はかかるが計画的な育苗が可能。 |
|
|
ハウス育苗床 |
加温式ハウス内での冷床苗床と無加温式ハウス内での電熱・温湯による温床苗床がある。大型のため熱効率が高く、大型団地向き。 |
|
|
病害虫 |
対 策 |
|
軟腐病 |
床土の表面が白いクモの巣状となり、種いもは軟らかく腐敗する。発見しだい種いもを除去しベノミル剤を潅注する。 |
|
黒斑病 |
苗の基部に黒色の斑点が現われ、葉は黄色くなり伸長が悪くなる。発見すればただちに種いもを除去し、基部5〜6cmを残して採苗し、苗は基部の5cm程度を47〜48℃の温湯に15分間正確に浸漬する。または、ベノミル水和剤500倍液に20分間浸漬する。 |
|
ウィルス病 |
葉が奇形になり、縮んでしぼり状となるので除去する。 |
|
蔓割病 |
葉が黄化し厚くなり曲げると破れ光沢が出てくる。茎に割れ目ができることもあり、発見しだい除去して焼却する。 |
|
イモコガ・ナカジロシタバ |
イモコガは葉が巻き、ナカジロシタバは葉を食害するので、早期発見に努め殺虫剤を散布する。 |
|
植付け方法 |
概 要 |
長所と短所 |
|
|
苗の各節へのいも付きをよくするため苗を浅く水平に植付ける。 |
いもは付きやすいが乾燥しやすく活着が悪い。 |
|
|
苗の活着を良好にするため、切り口を地中深く植え込む。 |
いも付きが良く乾燥に強いが植付け能率が劣る。 |
|
|
苗の中央部をやや深く舟底形に植付ける。 |
植付け能率が高く、植え痛みも少ないが、いも個数が多く揃いが悪い。 |
|
釣針植え・斜め植え・直立植え |
早掘用などのマルチ栽培に苗を釣針形、斜ざし、直立ざし に植付ける。 |
いもは、苗の浅い1〜2節に付き、個数が少ない。 |
今後は、農作業の機械化が重要であることから、挿苗や収穫の機械化を進めるため、畦幅90cm、畦高20cm〜30cm、株間25cm〜40cm(セル成形苗の場合は15cm)へと栽培様式の標準化を進めている。
4.施肥
(1)施肥量
さつまいもは、窒素に対して最も敏感であり、次いでカリ、りん酸の順である。試験データによれば、1tのいもを生産するのに必要な窒素は3.4s、りん酸2.0s、カリ9.0sであり、カリの吸収量が特に大きい。他の作物と比べても窒素とカリ無施用による減収率が高い。また、堆肥の施用による増収効果は極めて高いことが知られている。その反面、特に窒素過多では「つるぼけ」を起こし、いもの形成が不良となり肥大生長が阻害されて収量低下が著しい。
普通栽培の適量基準は10a当たり窒素3〜6s、りん酸4〜8s、カリ8〜12s程度である。
特に、いもから発根した根がカリを吸収して肥大するといわれ、いもの肥大を良好にするためには、生育後期まで順調に吸収できるように、深層まで土壌中のカリ濃度を高めるよう施肥しておくことが大切である。
○ 施肥の効果
|
窒 素 |
窒素は地上部の生育と乾物生産を促進し、いもの肥大を良くして収量を高めるが、施用過多では地上部が過繁茂になってつるぼけし、収量の低下が著しい。このため品種ごとの反応、畑の肥沃程度、植付け時期等を検討して適切な施肥量を決定することが大切である。 |
|
りん酸 |
さつまいもは、りん酸の吸収が少なく、収量への影響は少ないが欠乏すると葉が濃緑色となって地上部の生育が悪くなり、多用によりいもの形が長く、でん粉含有量が増加し、蒸しいもの肉質が粉質となって甘味が増し、貯蔵性が向上する。 |
|
カ リ |
カリは、いもの肥大に大きく影響を与える成分である。多いと同化産物の移動が速やかになり、葉の光合成能力を高め、いもの肥大を良好にする。ただしカリと窒素の比率がおよそ3対1の割合が好適である。 |
|
|
|
南 方 型 |
植付け後の地上部の生育がゆるやかで9月上〜中旬に地上部が繁茂期となる。いもはこの頃から急速に肥大して茎葉が黄変して落葉枯死するまで肥大を続け、でん粉歩留まりの最高は10月下旬〜11月上旬となる。 |
|
北 方 型 |
植付け直後から急速に地上部が生長して早く繁茂期に達し、収穫期にも茎葉の黄変、落葉は少ない。いもは7月中旬頃から急速に肥大し、8〜9月の2ヶ月で概ね7割の肥大が確保される。 |
|
注:1) |
キュアリングのキュア (cure) は傷を治すという意味。 |
|
2) |
処理温度は、当初 35〜36℃とされていたが、黒斑病がほとんどなくなり、高温が後の貯蔵に好ましくないことから、 現在は30℃で処理。 |
|
|
注: |
芽の出たいもの芽の部分を薄く土に埋め、伸びて来た芽に土寄せすると、その節から根が出ていもになる。土にいもを挿して、そこからつるが伸びた形が地面に止まったトンボに似ているので、「トンボ栽培」とも呼ばれていた。 |