アスタルテ (Astarte)

登録番号 農林認定
種苗法 
北海道優良品種 ばれいしょ北海道輸第25号 1993. 3.26
原品種名 Astarte  オランダ育成 1975 
地方番号 (S892) (1989)
系統番号 (H8706) (ホクレン農総研における導入番号) (1986導入)
組合せ SVP RR62-5-43×SVP VT5 62-69-5 (Karna) 系譜図

花 (北見農試) 草姿 (北見農試) 塊茎 (北見農試)
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用途 澱粉原料用
長所
  • ジャガイモシストセンチュウに抵抗性。
  • 澱粉の特性が「紅丸」と同様に優れている。
短所
  • 枯凋期が遅く、早期肥大性も劣るので、早期収穫には向かない。
  • ウイルスフリー株に、Yモザイク病のれん葉症状や葉脈の条斑えそに似た症状が現れることがある。
  • いもが小さい。


(1)来歴

 オランダのカルナ(Kweekinstituut Karna, the Netherlands)が、「SVP RR62-5-43」を母親、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の野生種S.verneiに由来する種間雑種系統「SVP VT5 62-69-5」を父親とした交配組合せから1975年に育成した品種である。オランダでは1985年頃に澱粉原料用の主要品種の一つであった。品種名は豊作の神「Astarte」に由来する。
 日本へは、昭和61年(1986)に北海道澱粉工業会とホクレンが共同でアグリコ(Agrico)を通じて導入した。「H8706」の番号で予備試験を実施した後、平成元年(1989)より「S892」の試験番号で北海道の馬鈴しょ輸入品種等選定試験に供試した結果、平成5年(1993)に北海道の奨励品種に決定した。
 ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、澱粉の品質が「紅丸」並に優れた澱粉原料用品種である作付面積は平成9年(1997)に980haを記録した後、平成13年(2001)には335haまで減少したが、その後再び増加に転じ、近年は600〜700haで推移している。平成26年(2014)には北海道の網走地方を中心に669ha作付けされた。
系譜図

(2)形態的特性

 萌芽時の葉色は緑色である。そう性は中間〜やや直立型で、茎長は「紅丸」および「コナフブキ」より長く、茎数は多い方だが、倒伏は比較的少ない。茎翼は直で、茎の色は緑色で赤紫色の2次色が斑紋状に分布する。分枝の発生は遅く、数は中程度である。頂小葉は「紅丸」より小さく「コナフブキ」並の小、小葉は「紅丸」より小さく「コナフブキ」よりやや大きいやや小である。葉脈がはっきりしており、葉縁は波打つ。ウイルスフリー株でも、葉につやがあり、しわが多く、一見れん葉に似た感じになるが、葉の緑色に濃淡が混じるモザイク症状は無い。ウイルス・フリー株でも2期防疫検査後頃から頂部小葉基部が巻くことがある生育のかなり後期になって葉の裏の葉脈に褐色の条斑が現れることがあり、Yウイルスのすじえそによく似るが、Yウイルスのすじえそより細く、葉の表側にはほとんど出てこないので、葉が枯れることはない。また、葉縁が少し巻き、左右の葉片が中肋から上向きに向き合う感じになる。そのため、葉巻病やYモザイク病などとやや区別しにくいが、ウイルス病の症状に比べると、それほどわかりにくくはない。このような症状は、高温や乾燥が長く続くと強く現れることがあり、降雨の後に症状が少し緩やかになるといわれる。
 花色は赤紫で、花弁の先端は白い。花数は多く、花粉は中程度みられ、自然結果はまれである。
 いもの着生の深さは「紅丸」よりやや深めの中。いもの形は卵〜長卵形で「紅丸」より細長い。皮色は白黄色で、周皮は滑らかである。目の深浅は「紅丸」および「コナフブキ」並のやや浅で、目の数は中。肉色は黄白である。

(3)生態的特性

 休眠期間は「コナフブキ」並のやや長である。初期生育は「紅丸」より遅く「コナフブキ」並のやや遅である。早期肥大性は「紅丸」より遅く、いもが小さいため、早掘りには不向きである枯凋期は「紅丸」および「コナフブキ」より遅く「サクラフブキ」並の晩生に属する
 上いも数はやや多く、上いも平均一個重は「コナフブキ」より小さい。上いも収量は「コナフブキ」よりやや多く「紅丸」より少ないやや多である。澱粉価は「紅丸」より高く「コナフブキ」より2ポイント程度低いやや高である。澱粉収量は「紅丸」より多く「コナフブキ」並と多収である

(4)病害虫抵抗性

 S. verneiに由来するジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、パソタイプRo1に対して抵抗性である。「コナフブキ」と同様に疫病抵抗性遺伝子R1R3を持つが、北海道では「コナフブキ」と同様特に強くはない。塊茎腐敗抵抗性は「農林1号」並の中である。
 Yモザイク病には、PVY-O、PVY-Tとも罹りにくい。"Netherlands Catalogue of Potato Varieties 1997"によれば、アスタルテはPVY-T(PVYN)に抵抗性(very good resistance)と書かれているが、PVY-Tをアブラムシや汁液で接種すると感染する。汁液接種した場合、どちらかといえばPVY-Oに罹りやすく、PVY-Tには少し罹りにくい傾向があるが、圃場でははっきりと症状を現した病株は見つかっておらず、ELISA検定でもウイルスは検出されていない。また、下葉にえそ症状が出ている株でも、えそが出ていない上葉ではウイルスが検出できないことがある。PVY-Tを汁液接種したときの病徴は、接種葉に脈えそ、壊死斑点をつくり、しだいに広がってやがて葉を枯らす。脈えそははじめ葉裏の葉脈に強く現れるが、まもなく葉の表にもはっきりと出てくる。このような症状はしだいに葉全体に広がり、やがて葉が枯れていく。感染した株にできた子いもにもウイルスが移ると、萌芽した後、葉に同じ症状が現れ、下葉から枯れてしだいに上の葉に移る。PVY-Oの汁液接種による症状は、PVY-Tの場合とほとんど同じだが、PVY-Tの方が少し軽い感じがあり、感染株の子いもが萌芽した場合の病徴もPVY-Tの病徴と同様である。PVAには免疫性である。
 Rx adg遺伝子を有しPVXに対して高度抵抗性(Extremely resistance)を示し、接種しても感染しない。PVSには罹りやすい方で、生育条件によっては、Sモザイク病特有の症状、すなわち脈間にうすい退緑斑紋と、ごく小さい褐色の斑点が現れることがあるが、普通はほとんど症状が現れないため見分けがつかない場合が多い。しかし、場合によっては、よく見ると上葉にかすかな退緑斑紋が現れることもある。
 葉巻病の第1次病徴は、頂葉の退緑、黄変と葉巻が現れ、しだいに下の葉に移り強く葉が巻く。しかし、そのあとに展開する上の葉では、退緑、黄変や葉巻症状が緩やかではっきりしないことがあるので、発病後期になると頂葉の症状がわかりにくい場合がある。第2次病徴は、葉が退緑して、黄変がはっきり現れる特徴があり、葉の巻き方も多くの品種に見られるように、葉巻病特有の底がまるいスプーン状になる。退緑と葉巻は下の葉からしだいに上の葉に進む。
 そうか病には「紅丸」並に弱く、罹病性品種の中でも病斑が大きく目立つ傾向がある。褐色心腐は「紅丸」より少なく「コナフブキ」並の微。中心空洞は「コナフブキ」並の微。二次生長は「紅丸」並の中程度発生することがある。

(5)品質特性

 澱粉の白度は「コナフブキ」より低い。澱粉粒子の大きさは「コナフブキ」より大きく「紅丸」並である澱粉中の灰分及びリン含量は「コナフブキ」より少なく「紅丸」並に少ない。最高粘度は「コナフブキ」より低く「紅丸」並で、ブレークダウンは「紅丸」程度と小さい。最高粘度時の温度は「紅丸」より低く「コナフブキ」よりやや高い。離水率は「紅丸」並に低い。ゲルの破壊強度、破壊歪はほぼ「紅丸」並で、適度な固さとしなやかさを持ったゲルである。総じて「紅丸」の澱粉特性に近い品質の優れた澱粉で、「紅丸」と同様ばれいしょ澱粉の固有用途全般に対応可能である
 グリコアルカロイド含有量が多いため、オランダでは食用としての使用を禁じられている。

(6)適地及び栽培上の注意

 十勝、網走、根釧地域に適する。
・塊茎の肥大及び澱粉価の上昇が遅い後期肥大型の晩生品種なので、浴光催芽によって生育の促進を図る。
・疫病の発生過程は「紅丸」に類似するので、疫病の防除は「紅丸」に準ずる。
・一個重が「コナフブキ」より小さく、小いもが多いので、収穫時には掘り残しのないように注意する。

・採種栽培では、ウイルス病に似た症状が多いので注意する。
・「コナフブキ」同様に、疎植では減収の傾向にある。



文献及び関連Web

三浦豊雄 編.“農作物優良品種の解説 (1987-1995)”.北海道立農業試験場資料 第26号(1996).北海道立中央農業試験場

"Netherlands Catalogue of Potato Varieties 2000" NIVAA 2000

四方英四郎 監.“アスタルテのウイルス病について”.北海道種馬鈴しょ協議会.平9.3

ばれいしょ品種の形態及びウイルスの病徴 (1) (独立行政法人種苗管理センター


ばれいしょ導入品種「S892」(アスタルテ) (主要成果情報)
ばれいしょ「S892」(アスタルテ)  (成績概要書)

ジャガイモ品種「アスタルテ」 (ジャガイモ博物館(浅間和夫氏による解説))


Astarte (European Cultivated Potato Database)


Astarte (Barbaroi!)
 Astarteの語源



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