馬鈴薯北農第2号 (ばれいしょほくのうだい2ごう)

登録番号 農林認定
種苗法 
北海道優良品種 1918-1928
異名 通称:エキシラズ(疫不知)
Ito's variety, Ekishiradzu
地方番号 本育2号
系統名  
系統番号 第一号
組合せ 疫不知」から純系淘汰 (北海道農事試験場)

塊茎
最右列の上から1番目と2番目が「北農第2号」
北海道農事試験場.“耐病性馬鈴薯北農第二号成績概要”.(1921)
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北海道農業試験場彙報第62号(1943)より

(1)来歴

 北海道農事試験場本場において大正3年(1914)に「疫不知」(フランスより輸入した種子より育成)の純系淘汰に着手し、品質、いもの形、収量性に優れたものを選出し育成されたものです。大正7年(1918)に「馬鈴薯北農第2号」と命名され、特に疫病多発地帯の限定優良品種となりました。昭和3年には優良品種から廃止されましたが、昭和20年(1945)頃にはまだわずかながら栽培されていたようです。
 わが国において、種子より育成し、奨励品種となった最初のばれいしょ品種であることにも意義がありますが、その選出方法が集団育種法、または混合育種法(Bulk method)に相当する方法がとられたことや、疫病の発生に好適する地帯を利用して耐病性品種が育成されたことも興味深い。
 当時、欧米においても、北海道大学元学長伊藤誠哉教授の手を経て試験用品種に供され、「Ito's variety」、「Ekishiradzu」の名で呼ばれました。

(2)特性

 茎長は長く、茎は濃緑色です。花はわずかに紫を帯びる白色です。
 いもは扁卵形で、表皮は白色で粗く、目は極めて浅い。いもは大きくはありませんが、収量は多い。収量は、やせ地では比較的少ないですが、肥沃地では著しく増収します。
 疫病抵抗性が特に強い品種で、北海道では釧路、根室等の霧の多い地方、その他疫病の多く発生する地方に適していました。ウイルス病には弱い。
 肉質は粘質で堅く、品質は劣っており食味も良くありません。


主要農作物優良品種の解説”.北海道農事試験場彙報.46(1927)
 北農第二号(本育二号) 本場に於て「疫不知」より選出育成したるものにして最も晩熟種に属し、馬鈴薯疫病に対する抵抗力極めて強く、殆ど免疫性の品種と称し得べきも、萎縮病にはかかり易し。釧路、根室地方の如く馬鈴薯疫病の被害著しき地方に栽培するに適する限定品種なり。草丈高く、茎は濃緑色にして花は微かに紫を帯ぶる白色なり。薯塊は扁卵形、外形は白色にして粗なり。目極めて浅く、肉は白色にして堅く、品質劣り味良好ならず。薯塊は大ならざるも収量多し。本種は瘠地にありては其収量比較的少なきも肥沃の地にありては著しく増収するの特性あり。開花期は七月中旬、茎葉枯凋期は九月下旬乃至十月上旬なり。


伊藤誠哉.“疫病に對する免疫性馬鈴薯に就て”.日本植物病理学会報.1(1):5-9 (1918)
…吾等が真の疫不知として呼ばんと欲するものゝ特性は次の如し。
 熟期晩くして豊産、茎は直立し強く、葉は多からずして淡緑、中等大にて強健、塊茎卵形又は楕円形、扁平ならず、目は少なく、小形にして浅し、皮は白黄色にして著しく網紋ありて粗糙、肉は白色にして堅緻花は白色にして僅かに紫を帯ぶ。
 本種が疫病に対して抵抗力の強大なるは多年の圃場試験並に実地家の実験に徴して明かなり、然れ共夏疫病並に萎縮病に対しては感受性強きは欠点なれど此両病害の程度は疫病と同日の談に非らず、尚本種の欠点と認むべきは其味の雪片種に比して遠く及ばざるにあり、…


山崎俊次.“馬鈴薯の品種と其の特性”.北農.3(9),349-351(1936)
 疫不知、北農第二号は互に酷似し極晩熟で花は淡赤紫、薯の形はペポーに似て、表皮面は雪片に似てゐる。

北海道農事試験場.“耐病性馬鈴薯北農第二号成績概要”.(1921) p.2-3
 「北農第二号」の育成 
 前記の如く、「疫不知」は実生より生じたるものなるが故に、品種甚しく雑駁にして、諸種雑多の特性を具へたるものを多く混入せるを以て、本場に於ては精密なる調査研究により、異型の分離を行ひたり。本場に初めて「疫不知」を栽培せしは大正三年にして、前年秋、釧路農事試作場より取り寄せたるものなり。
 大正三年の栽培により、「疫不知」を大体次の四種に分離することを得たり。
 (一)薯塊楕円形、薯皮黄白色なるもの。
 (二)薯塊円形にして、薯皮黄白色なるもの。
 (三)薯塊円形にして、薯皮鮮紅色を呈するもの。
 (四)薯塊円形にして、薯皮淡紅色を呈するもの。
 かくて其年の秋、再び種薯を釧路農事試験場に得て、翌年前年のものと共に栽培し、左記八種に分離せり。
 (一)薯塊倒卵形にして、薯皮黄白色、花白きもの。{第一号
 (二)薯塊不正なる球形を呈し、薯皮黄白色、花白きもの。{第二号
 (三)薯塊不正なる球形にして、薯皮紅色、花紫色のもの。{第三号 第四号 第八号
 (四)薯塊不正なる球形又は楕円形にして、薯皮紅色、花白きもの。{第五号 第六号 第九号
 
 右は、大正五年更に栽培し、詳細なる調査研究の結果、その中、最も優秀なるものを選抜して「第一号」を得、爾後優良種との収量比較試験を行ひ、其収量亦敢て在来優良品種に劣ることなきを確かめたるを以て其種薯の増殖を図り、大正七年「北農第二号」と命名し、之を限定品種(限定品種とは局所を限りて、栽培の奨励をなす品種の謂なり)と定め、特に馬鈴薯疫病の被害甚だしき地方に配付を行ひ、今日に及べり。



北海道農事試験場.“耐病性馬鈴薯北農第二号成績概要”.(1921)

北海道農事試験場.“主要農作物優良品種の解説”.北海道農事試験場彙報.46(1927)

山崎俊次.“馬鈴薯の品種と其の特性”.北農.3(9),349-351(1936)

伊藤誠哉.“疫病に對する免疫性馬鈴薯に就て”.日本植物病理学会報.1(1):5-9 (1918) (CiNii)

佐藤導謙、村田吉平.“北海道農事試験場本場育成・「本育」番号系統の来歴”.北農.74(3),289-315(2007)




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