今年の1月末のこと、伊豆七島の1つ、新島から観光協会の菊地三郎会長と同会民宿部会の役員三名が来られ、こんな話をされた。「新島は緑の島ではない。砂と石ころだらけで昔から麦といも(サツマイモ)しかできない所だった。今はそれもろくに作らなくなったので畑は荒れ放題。草ぼうぼう。
ここは観光に力を入れているので、このままではまずい。なんとかしなくてはとなってきた。それで浮かび上ってきたのが、いもの見直しだった。新島のいもは「アメリカ」という品種。皮は白で、中は黄色。収量は少ないが、あまくてうまい。

最近は健康食ブームで、いももその一つとして人気が出てきた。島にもともといいいもがあるのだから、それを活かしてみようとなった。実は前に「いも掘りツアー」をやったこともあった。その復活も考えられる。民宿の郷土料理の一つに、いも料理も加えたい。それで島のいもの良さが分かってもらえれば、生いももおみやげ品になるかも知れない。
話が盛り上り、先進地見学となった。それで川越に来たというわけです。わたしたちは先発隊です。来週は本隊の村会議員の一行がまたここに来ます。
新島のいもは「アメリカ」と聞いてびっくりした。それは広島市の久保田勇次郎という人がちょうど百年前の明治33年(1900)にアメリカから持ち帰って広めた古い品種であることと、関東では昔からほとんど作られなかった珍らしいものだったからだ。
このいもは作りやすく、貯歳もしやすい。味もいいということで中国、四国、九州などの西日本に広く普及した。久保田さんは「七福」と名付けたが、導入先にちなんで「アメリカ」、「アメリカイモ」、「メリケン白」などと呼ぶ所も多かった。
もっとも太平洋戦争中は「アメリカイモ」とはけしからんとなり、「七福」に改めさせられた所が多かったと聞いている。最近『さつまいも』(法政大学出版局、1999)を出された坂井健吉先生によると、このいもはやせ地や早ばつ地に特に強い。味もいい。掘りたてはホクホク。貯蔵していると、ねっとりとしてきてあま味が増す。
ただ収量が少ないので、都府県の奨励品種になりにくかった。それでその後、次々に現われた新品種に押され、今では西日本でもほとんど作られていないという。

今日、新島の本隊の一人として川越に来られた菊地佐一村議さんが、その「アメリカ」を送ってきてくれた。さっそく展示室に並べさせてもらった。そのいくつかを蒸して食べてもみた。ねっとりとしていてあまく、本当にうまいいもだった。
幻のいもになりかかっている「アメリカ」が新島にしっかり残っていることと、島の人たちがそれを見直し、島おこしに使おうとしていることが分かって嬉しかった。このいもを大事にすることで、新島に優れたいも文化が興ることを願っている。