タチバナ

登録番号:ばれいしょ農林7号 (1955. 5)
地方番号:西海2号
系統名 :長系8号

用途 食用 (暖地二期作用)
長所
  • 秋作で多収、大いも。
  • 青枯病に強い。
短所
  • 澱粉価が低く、食味が劣る。
  • 晩生のため、春作では収穫期がやや遅れる。
  • 疫病に弱い。



(画像提供) 田中智

(1)来歴

 昭和23年(1948)に農林省札幌農事改良実験所島松試験地において、農林1号」を母、「Katahdin」を父として人工交配した種子を、翌年農林省西条農事改良実験所安芸津試験地に配付して、同年秋作に実生を育成し、昭和25年(1950)から農林省佐賀農事改良実験所長崎試験地に移し、その翌年から長崎県農業試験場愛野試験地で選抜を行い育成されたもので、「ウンゼン」の兄弟系統にあたります。昭和30年(1955)に「ばれいしょ農林7号」として登録され、育成地に近い橘湾の地名をとって「タチバナ」と命名されました。
 秋作の増加とあいまって目ざましく普及し、ピークの昭和43年(1968)には全国で春秋あわせて6,006ha作付されました。食味がより優れた「デジマ」が育成されたことから作付は減少し、現在栽培はほとんどなくなったものと思われます。
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(2)形態的特性

 幼芽は白色です。茎長はやや長く、茎は太くて強剛に見えますが強風にはややもろく折損しやすい。茎の色は緑で二次色は無い。そう性は直立型ですが、分枝の発生が多く、全体的には開いています。夕方になると、葉が生長点を包むかのように集まる就眠運動も見られ、夕方の培土作業がしやすい品種です。葉色はやや濃緑で「農林1号」より濃い。小葉はやや大きく広く、葉面は滑らかです。花は白色で大きく、数は極めて多い。花粉が多く、自然結果も多い。
 ふく枝は春作では長いですが、秋作では中程度になります。いもの形は倒卵〜楕円体で、皮色は白〜淡白黄で表皮は滑らかです目は極浅く、外観は極めて良好です肉色は白い

(3)生態的特性

 休眠期間は「農林1号」より数日短く「デジマ」並です。初期生育及び早期肥大性は、春作では中程度、秋作ではやや速い。熟性は春作では晩生、秋作では中晩生で、「農林1号」よりやや遅い。
 いも数は「デジマ」より少なく、上いも平均一個重は大きい。大・中いもが多く屑いもは少なく、粒ぞろいは良好です。いもの収量は、春作では秋種の「男爵薯」を上回りますが「農林1号」よりやや劣ります。秋作では「農林1号」より約2割増収し多収です澱粉価は「ニシユタカ」より低い

(4)病害虫抵抗性

 青枯病抵抗性はやや強です。疫病抵抗性主働遺伝子は保有しておらず、疫病圃場抵抗性も弱い。粉状そうか病抵抗性は中、そうか病抵抗性は弱い。葉巻病には弱く、「ウンゼン」より明らかに発生が多い。PVY-Oに対してはえそ型の病徴を示し、PVY-Tに対しては感受性ですが病徴を現しません。PVAには感染しません。PVX-oには感受性ですが、PVX-bに対しては強い抵抗性を示します。PVSのモザイク系統には病徴を現しません。ジャガイモシストセンチュウにも感受性です。中心空洞は無く、二次生長は「ニシユタカ」より多く「デジマ」並の少です。

(5)調理加工特性

 肉質は粘質で、煮くずれは極めて少ない。調理後黒変は無い。食味は中の下ですが、秋作のいもは貯蔵後3〜4月に食味がやや向上します。

(6)適地及び栽培上の注意

・感光性、耐肥性等に敏感で、栽培適応範囲は若干狭く、いも収量はやや不安定の嫌いがあります。春作の収穫期を遅らせると多収性の能力を発揮して、春作向きの「ウンゼン」を上回ります。
・秋作では萌芽が「ウンゼン」、「農林1号」より早く、萌芽そろいやその後の生育も良く、いも収量は極めて優れており、暖地の秋作地帯向きとして適しています
・春作しても「農林1号」程度の収量はありますが、秋作で多収性の能力を発揮する秋作型の品種です。
・生育中に疫病防除の薬剤散布は適宜行わなければなりません。

奨励品種に指定している都道府県(△印は準奨励品種)

なし

育成従事者

宮本健太郎、松澤正知、石本一真、伊藤照三、永石昭典、谷川文蔵、宮原萬芳、藤山俊計、永石定義
永田利男(交配)




文献及び関連Web

農林水産技術会議事務局.タチバナ”.農作物品種解説 畑作物の新品種(昭和30〜38年度) (1963) (農林水産研究成果ライブラリー)

タチバナ (農林水産省農林水産技術会議事務局 命名登録品種データベース

宮本健太郎.“馬鈴薯新品種「ウンゼン」及び「タチバナ」について”.長崎農試研報集(創立60周年記念号).7-28 (1958)
宮本健太郎、宮原万芳、松沢正知.“馬鈴薯新品種ウンゼン及びタチバナについて”.九州農業研究.17:1-4 (1956)


ばれいしょ品種の形態及びウイルスの病徴 (1) (独立行政法人種苗管理センター


西尾敏彦.“宮本健太郎の熱意”.日本の「農」を拓いた先人たち No.14.(農業共済新聞 1995.5.31)

「タチバナ」の父親に関して
Katahdin (European Cultivated Potato Database)




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