長崎赤


(1)来歴

 明治11年(1878)頃、長崎市大浦の青物商が外国船から種いもを得てそれが農家に渡ったのが始まりといわれる。DNAマーカーはアメリカの「Triumph」と一致した。
 明治40年(1907)に春作用品種として長崎県の奨励品種に決定した。南洋、中華、朝鮮等へ輸出され、大正5年にはフィリピン、香港、ウラジオ方面にも輸出されるようになり、栽培は次第に増加した。長崎県からは食用として海外に送られるほかに、種いもとしても海外、特に朝鮮に多く送られた。種いもはすべて秋作産のものすなわち秋種であった。昭和11年頃(1936)には長崎県で栽培されるばれいしょの47%を占め、戦後も春作の80%を占めた。

(2)特性

 熟期は早生。花色は紫色。いもはやや平たい球形で、大きくそろいが良い。皮色は鮮紅色、肉は黄白色で粘質。目はやや深い。いもは貯蔵性がある。収量が多く、秋作に適し、暖地の採種に適する品種であった。煮くずれしないので煮物用に適しており、フランス料理を初めとする油を使う料理に広く適していた。

川上幸治郎.“馬鈴薯の栽培及利用”.大日本農会.(1939) p.69
 来歴不詳なるも,早生種として中国・九州地方並びに朝鮮に栽培せられる。二度作に適し強健多収である。薯は紅色を呈し目浅き球形で,肉色白く粘質である。薯の品質は中等であるが能く貯蔵に堪へ,特に輸出用馬鈴薯として最も重要なる地位を占めてゐる。
 長崎県は本種の主産地であり,種薯は内地のみならず,朝鮮地方へ販売せられてゐる。その殆どは秋種である。

川上幸治郎.“馬鈴薯通論”.養賢堂.(1948) p.58-59
 明治11年頃,長崎市大浦の青物商が外国船から種薯を得て,農家に渡ったのが始まりである。南洋,中華,朝鮮等へ輸出,大正5年フィリッピン,ホンコン,ウラジオ方面にも輸出されるようになり,栽培は次第に増加した。長崎県で栽培されるバレイショの47%を占めている。長崎県からは食用として海外に送られる外に,種薯としても海外殊に朝鮮に多く送られる。種薯は凡て秋作産のもの即ち秋種である。
 薯は丸の大形で,鮮紅色,肉は黄白色で粘質である。目はやゝ深い。薯はよく貯蔵に耐える特性がある。収量多く,秋作に適し暖地の採種に適する品種である。

月川雅夫.“長崎ジャガイモ発達史 −創立30周年記念誌−”.長崎県種馬鈴薯協会.(1990) p.55-
1 品種の分布
 長崎県は明治10年、西彼杵郡長崎村に植物試験場を開設し、…中略… 同11年からは種苗の配布も行った。
 …中略…
 明治15年、ジャガイモの試作も行ったが、アメリカ産の「赤馬鈴薯」を用い、春・秋2作の栽培を行った。一説によれば、後年の本県の代表的な品種となる長崎赤もこの頃農家で試作されたといわれるが4)、これらの関連については明らかでない。
 …中略…
 明治44年の摘要においては、長崎赤が生産者、需要者ともに好評であって、とくに輸出に当たってはこの品種に限られていたこともあって、生産されるジャガイモの大部分が長崎赤であったとみてよい。
 その後、国内消費の増加によって他の品種もとり入れられ、昭和10年頃の調査においては長崎赤が約半数となって、長崎白、男爵等がそれぞれ10%程度の作付となっていた。用途別には長崎赤はフィリピン、ホンコン向け輸出に向けられ、長崎白(ぼけ)は品質の良い点から県内市場向けが多かった。また、輸出向けでもシンガポール向けとしては長崎黄が好まれ、主として南高来郡加津佐町、口之津町で生産されていた5)。

2 品種の選択
 長崎県立農事試験場の創立は明治31年4月であるが、翌32年9月からジャガイモを植え付けた。品種は白色種不詳とあるが、これは翌33年春作にも栽培した。
 明治34年春作からは「各種類二付キ収量ノ多寡、品質ノ良否ヲ検定」することを目的として品種比較試験を行った。
…中略…
 なお、赤在来種がいわゆる「長崎赤」とよばれるのは農事試験場成績報告第9号(明治40年3月刊)からである。また、長崎白も同時によばれるようになったものと考えられるが、記録として始めて(ママ)出るのは1年遅れの農試成績報告第10号においてであった。
 長崎赤の来歴については「長崎赤はその伝来の歴史が不明で、また原名も判明せぬが、長崎市大浦の某青果商が外国船が種薯を得て、農家に試作せしに始まると始まると称へられている」とされている。
 なお、現在においては、長崎赤はアメリカ産の品種「トライアンフ」に各種の表現形質が極めて相似の関係にあることが指摘されている7)。



文献及び関連Web

川上幸治郎.“馬鈴薯の栽培及利用”.大日本農会.(1939)
川上幸治郎.“馬鈴薯通論”.養賢堂.(1948)
月川雅夫.“長崎ジャガイモ発達史 −創立30周年記念誌−”.長崎県種馬鈴薯協会.(1990)


Triumph (European Cultivated Potato Database)



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