根室紫

(別名:根室,根室薯,赤芋,紫芋)



(画像提供) 花:田中智  塊茎:北海道農事試験場報告.1(1903.3)

(1)来歴

 1878年(明治11)札幌で農業仮博覧会が開かれた際に、根室から初めて出品された在来品種である。その後各地に広まり、「屯田薯」とともに明治中頃まで北海道の主要な品種であったが、1900〜1902年(明治33〜35)にかけてジャガイモ疫病が大発生して以降、収穫がほとんど見込めなくなり栽培は激減したが、第二次大戦後もわずかに栽培されていた。
 現在は、種苗管理センターなどに農業生物資源ジーンバンクの遺伝資源として保存されている(JP:170431)。
 「根室紫」は南米から始めてヨーロッパに伝えられたジャガイモと言われるS.tuberosum ssp.andigenaに典型的なA型葉緑体DNAを持ち(Hosaka (1993))、ゲノムDNAのRAPD分析の結果、埼玉県大滝村に古くから伝わる「紫いも」とマーカー型が一致し、ssp.andigenaに高い類似性を示したことから(Hosaka et al.(1994))、品種はわが国に最初もしくはごく初期に伝来したジャガイモに由来すると同時に,最初もしくはごく初期のヨーロッパのジャガイモの直系の末裔であろうと推論している。

(2)特性

 熟期は「屯田薯」より早い中生で、花色は青紫。いもの表皮は粗く、長形で皮色は紫、肉色は白、食味は中。

 花粉が多く、後代の変異にも富むため、交配育種開始当時は盛んに交配に利用され、「根室紫」を父親とした交配組合せから「岩手4号」、母親とした交配組合せから「明星」が育成された。「根室紫」の自然結果種子から育成された「島系284号」は、維管束にアントシアニンによる紫色の着色があり、赤肉、紫肉品種(カラフルポテト)育成のための遺伝資源として重要な役割を果たした。



文献

北海道農事試験場.明治三十五年農事試験成績 馬鈴薯.北海道農事試験場報告 1:56-67 (1903)

北海道農事試験場.馬鈴薯 《爪哇芋》.北海道農事試験場彙報 6:1-30 (1908)

窪田森太カ.馬鈴薯の種類.北海道農会報 3(26):2-6 (1903)

山田勝伴.本道馬鈴薯栽培の沿革.北海道農会報 5(60):913-915 (1905)
p.915
以上述ぶる種類の内、「スノーフレーキ」、「アリーロース」及「屯田」、「根室」は従来最も多く栽培し来りしも、明治三十五年馬鈴薯疫病発生以来、晩熟性の「屯田」、「根室」の如きは結実せず、且つ収穫の見込みなきを以て年々其栽培は減少せられ、之に反し早熟性の「アリービーテー、オフ、ヘブロン」の如き大に歓迎せらる、而して「アリーロース」、「スノーフレーキ」等も亦、現今最も盛に栽培せられつゝあるものなり。

爪哇薯収穫量及澱粉量.北海道農会報 3(35):109-113 (1903)

高橋正男.馬鈴薯二関スル調査.北海道庁内務部(1919)
p.1
天保中(仁孝天皇)根室ニ於テ漁場請負人柏屋喜兵衛ナル者字根室浜(今ノ本町)ニ畑五反歩余ヲ開キ蘿蔔、馬鈴薯等ヲ播ケリ同地方ハ馬鈴薯ノ栽培次第ニ盛ニ明治初年根室、野付、標津、目梨、白糠、釧路、厚岸ノ各郡ニ播殖スルニ至レリ

p.3
而シテ当時相当ニ栽培セラレタルモノニテ原産地ノ不明ナルモノヽ内俗ニ『赤芋』又ハ『紫芋』と称シ赤紫色ヲ帯ヘルモノアリ一ハ『屯田』ト称シ芽ノ深キモノ一ハ『根室』ト称シ目ノ浅キモノナリ、其ノ石狩国ニ来リタル由来ヲ尋ヌルニ前者ハ渡嶋地方ヨリ胆振有珠ニ入リ次テ札幌地方ニ来リタルモノ如ク後者ハ明治十二年札幌ニ於テ共進会開催ノ時根室ヨリ始メテ出品ニ係リシモノナリ、思フニ『屯田』ハ瀬棚地方ニ於テ昔日ヨリ栽培セシモノ『根室』ハ柏屋喜兵衛カ天保年間ニ於テ根室ニ播種セルモノナルガ如シ

※上記、明治十二年の共進会とは農業仮博覧会のことと思われるが、札幌で農業仮博覧会が開催されたのは、第1回が明治11年、第2回が明治13年である。

田口啓作.育種学的見地から見た馬鈴薯品種.農業及園芸 19:315-319 (1944)
p.319
只北海道に存在する「根室紫」は古い品種の代表的なもので然も当初南米から欧州並びに北米に入れられた品種の型と同様強度の雑種性なる上に高い稔実性を持つ品種で,其の後裔は極めて変異に富み今尚育種上好材料たるを失はない −
(略)
− 更に此の品種は塊茎の表面粗剛で濃紫色を呈すること等よりして前述グットリッチの輸入した「ラフパープルチリ」を彷彿させる品種であると謂へよう。

Hosaka,K. Similar introduction and incorporation of potato chloroplast DNA in Japan and Europe. Jpn J Genet 68:55-61(1993)

Hosaka,K.,Mori,M.,Ogawa,K. Genetic relationships of Japanese potato cultivars assesed by RAPD analysis. Am Potato J 71:535-546(1994)

北海道農業試験場.馬鈴薯の育種ならびに研究成果の概要.(1965)
p.196 (5.品種の特性概要)
112 根室紫  育成地:北海道在来 両親:不明 疫病抵抗性:r  中早生 紫いも 長形 中小粒 青紫花

森元幸.多様な遺伝資源を利用したバレイショ新規品種の創成に関する研究.神戸大学大学院農学究科博士論文 (2009)

米田勉,森元幸.ばれいしょ「島系284号」.北海道農業試験場研究資料 41:27-29 (1990)


関連Web

ジャガイモ品種「紫いも」ほか http://potato-museum.jrt.gr.jp/.jp/a5ama/">ジャガイモ博物館(浅間和夫氏による解説))

「根室紫」の花の画像 (ポテトフィールド(田中智氏のサイト))




じゃがいも品種詳説 TOP