当日の司会進行は日本いも類研究会事務局長補佐の橋本が行った。座長をお願いした日本いも類研究会の小巻会長からは、「過去には黒斑病を克服できたので、サツマイモ基腐病も確実に対策すれば克服できるものだと考えている。被害が広がる中で、どうすればサツマイモ基腐病に対処できるのか、一歩でも踏み出せる情報の共有の場としたい」との挨拶があった。

(1)話題提供

第1回サツマイモ基腐病情報交換会の際に寄せられた質問への回答(Q&A)や令和3年度の鹿児島県における発生状況と対応について説明を行うとともに、パネリストから防除対策の結果や経過等について報告があった。

①サツマイモ基腐病Q&Aの説明

農研機構九州沖縄農業研究センター カンショ・サトウキビ育種グループ長小林晃氏から前回の質問に対する回答の説明を行った。Q&Aは全部で32あり、基腐病の発生生態、国内での被害状況、農薬による防除・土壌消毒、耕種・生物的防除、収穫・貯蔵・流通、検査技術、その他(支援対策)のジャンルで整理されている。(内容はサツマイモ基腐病 Q&A参照)

②鹿児島県の今年の発生状況や取組みについて

鹿児島経済連の清水洋之氏より鹿児島県の今年の発生状況や取組みについて、以下の通り説明があった。

令和3年度の鹿児島県内の作付け自体は約1万haと例年並みで、サツマイモ基腐病対策のため1~2週間の早植えを行ったが、梅雨入りが早く来てしまったので、結果的に例年と同じぐらいのスケジュールとなってしまった。当初は梅雨によるサツマイモ基腐病の発生が危惧されたが、苗の消毒や排水対策が功を奏して、昨年に比べると被害はあまりみられなかったものの、8月頭の長雨で被害が急激に広がってしまい、サツマイモ基腐病の発生が見られた圃場は7割強にのぼった。しかし、被害が酷い圃場は相対的に減っている。

県全体の取組みとして、被害が大きい南薩、大隅、種子島地域については、地域ごとにプロジェクトチームを作り、技術周知や対応策の取組みを行って「持ち込まない」「残さない」「増やさない」の3大防除対策の徹底を行っている。またコンソーシアムを組んで、防除技術の開発、農薬の開発、新品種の栽培試験を実施している。

鹿児島経済連としては、従来より行ってきたドローンによる防除受託で、殺虫剤に合わせてアミスター20フロアブルの散布を行っている。また、健全な種いもや苗の確保、検定キットを使った確認を行っているほか、ドローンやセンシングを含めた病気の早期発見の技術構築にも取組んでおり、令和4年度以降での改善と早期実用化を目指している。

③ドローンによる基腐病検出の取組みやその状況について

JA 鹿児島きもつきの松崎俊昭氏よりドローンによる基腐病検出の取組みや抵抗性のある新品種の収量などについて以下の通り説明があった。

スマート農業実証プロジェクトで、ドローンによる空撮写真の収集から葉面解析ソフトによる羅病株の発見に取り組んだ。虫害の発見はある程度の精度が得られたが、病害の発見については実用レベルには届かない結果となった。ドローンによる圃場高低差の測定を行い、排水の悪い箇所の特定を行い、明渠・暗渠の設置を行った。

「しろゆたか」を栽培している実証圃場で7月頭にサツマイモ基腐病の羅病株が発見され、そのまま放置したところ、その株は枯れてしまったが、周囲に病気は広がらなかった。8月上旬の長雨の影響と思われるが、サツマイモ基腐病で枯れた株の周辺で8月末に再度羅病株が発見されたが、それ以上の広がりはみられなかった。

実証に参加している生産者の中で、輪作体系を組んでいる生産者は被害があまり出ておらず、平均以上の収量が得られている。単作生産者は被害が酷い傾向にあるが、サツマイモ基腐病抵抗性のある、「しろゆたか」、「こないしん」の収量はあまり落ち込んでいないのに対して、「コガネセンガン」、「べにはるか」は半分以下の状況であった。県の指導に従い、ドローンによるアミスター20フロアブルとプレバソンの混合散布を行った結果、昨年に比べると被害の拡大は抑えられたという状況であった。

④パネリストからの話題提供

九州、関東のサツマイモ産地のJA、農業生産法人等の担当者、農林水産省の担当者も含めて9名により、防除対策の結果や経過等について話題提供があった。当日欠席となったパネリストの方からの情報は、事前にもらったコメントを事務局が代わりに説明した。

日本かんしょ輸出促進協議会の佐藤代表からは、「地元の長崎県五島市では今年はサツマイモ基腐病の発生は見られなかったが、黒斑病の被害があった。重粘土質で水はけがわるいが、傾斜を活かした排水対策を行い、3大防除対策の徹底は引き続き行っている」との説明があった。

その他のパネリストからの話題提供をまとめると、次の通り。

●南九州の産地
  • 収穫した時点では被害は出ていないが、貯蔵した後に被害が出てくる場合がある。同じ日に入ってきたいもでも貯蔵後2~3か月で半分腐っている場合もある一方で、あまり被害がでないパレットもあるような状況。何が原因なのかわかっておらず、100%の対策が見えていない状況だと、青果用の貯蔵は難しくなる。
  • 3大防除対策をひとつずつ丁寧に実施している生産者は、被害状況に改善が見られ、持ち直している。消毒のやり方やタイミングによって効果に差が出ている。また、菌資材がかならず効くわけではなく、水わけが悪いと被害がでやすいので、排水対策は重要。被害を0にするのは難しいが、早掘りによって残渣分解を早めにするなど、毎年の対策の積み重ねで改善は可能だと思われる。
  • 輪作に効果は見られたが、水はけの良し悪しにより状況がかなり違ってくる。被害が少なかった圃場でも、連作してしまうと蔓延する。菌資材も土の状態により、効果に差がある。早掘りすることで収量は落ちるが、病気の被害はでにくい。蒸熱処理は大型の機械が必要なので、小さなところでは導入しにくく、共同利用できる仕組みが必要となる。
●関東の産地
  • 茨城県では6月、7月に基腐病の発病が確認された圃場全ての抜き取りを行った以降、県内での発生は見られてない。現在は、情報共有、水際対策を行っている。広く基腐病を知ってもらうためのポスターを配布し注意喚起を行うとともに、農業技術センターで資料を作成し、育苗や収穫対策マニュアルを作成して生産者に配布を行った。サツマイモ基腐病連絡協議会を立ち上げて、県全体でも取組みを始めている。苗や種いもから持ち込まれる対策を徹底し、種苗店でのトレースができる体制・対策を講じて欲しい。
  • 情報を一度に発信すると生産者がとまどってしまうので、時期に合わせて小分けして発信を行っている。JA管内だけではなく、家庭菜園やJA管外にも、千葉県の農業事務所を経由して、種苗店やホームセンター、道の駅などにポスターを掲示し広く情報提供を行っている。今後は貯蔵中にサツマイモ基腐病が発生した場合や、育苗時の対策などを、JAと県が一体となって生産者に対して栽培講習会などで広く発信していく。
●種苗メーカー
  • 緑肥作物と菌資材の検証を生産者と一緒に取り組んでいたが、8月の長雨で被害が広がってしまった。ただ、何もしないよりかはマシだったと思われる。排水対策がポイントだと感じた。
  • 用途によってかけられる経費には違いがあるが、菌資材のタイミングや畑の状態によって効果に違いが見られるので、最大限に活かす管理が必要である。
  • 健全な種いもや苗の確保・提供に努めたい。抵抗性品種の開発にも取り組みたい。
●行政(農林水産省)
  • 令和3年産かんしょの基腐病被害に対する支援対策を令和4年度予算でも継続して措置している。
  • 項目としては、①防除対策への支援として3大防除対策実施にかかる支援、②生産維持への支援として、輪作体系の導入促進、③健全な苗供給としてウィルスフリー苗、蒸熱処理の推進、④被害削減対策の実証支援、⑤排水対策・土壌改良への支援を行うものである。

(2)パネルディスカッション(情報交換・意見交換)

パネリストによる情報交換のほか、参加者からの質問に対してはZoom ウェビナーのQ&A機能で質問を受け付けて回答を行った。

●抵抗性品種について

でんぷん用品種では「こないしん」が抵抗性があり推奨される。

焼酎用品種では「たまあかね」に抵抗性があるが、オレンジ系品種のため、大きく普及するのは難しいと考えている。「コガネセンガン」の代わりとして「九州200号」の品種登録を進めている。ただし、生産者に苗が供給されるのは再来年(令和5年)以降になる見通し。

青果用品種では「べにまさり」に抵抗性があり、肥大が早いため早掘りにも向いている。「べにまさり」の血を引いている品種には抵抗性があるものと見られる。青果用は品質基準が高く、食味の適性が落ちるものであればここ2年ぐらいでリリースできる品種はある。

海外(CIP)から導入した基腐病抵抗性を持つとされる品種にあまり良い品種がなく、日本の栽培品種の中で抵抗性をもつ品種(「おきこがね」等)を使っていくほうが早いと考えている。

●一般的な腐敗とサツマイモ基腐病の判断について

腐敗する類似の病気として、乾腐病や炭腐病がある。サツマイモ基腐病は黒い粒々が見え、腐敗はなり首のほうから出てくる。一方で、乾腐病はおしりの方からでるので、その違いで判断できる。

●種芋の蒸熱消毒について

現時点では種いもの蒸熱処理は効果が確認されているが、青果用はまだ未検証である。頭やしっぽを切り、羅病していないことを確認した上で処理を行わないと効果がない。ベンレート水和剤による消毒には効果がある。しかし、苗床が汚染されている場合は、水撥ねで苗に移る場合があるので、水やりの方法に注意する必要がある。

(3)座長による総括

小巻会長から「3原則が基本となり対策を徹底すれば、効果があることがよくわかった。産地の方々は国からの支援策をうまく活用して対策を進めていただきたい。日本いも類研究会は、引き続き情報を集めて、わかりやすく伝えていきたいと思う。」との総括があり、情報交換会を終了した。