当館では年に2~3回、特別展を開く。寒風が吹きまくる1~2月は干し芋作りの最盛期なので、正月から3月にかけて特別展、「日本各地の干し芋」を開くことにした。現在、蒸し干し芋やゆで干し芋の産地として知られているのは長崎県の五島地方、茨城県の那珂地方、静岡県の御前崎地方と磐田地方などだが他にも小産地なら全国いたる所にある。 たとえば三重県の志摩地方、群馬県の榛東村や川場村、埼玉県の吉田町、寄居町、日高市などなどだ。
自家用の蒸し干し芋やゆで干し芋は古くからあったが、売るために最初に作り始めたのは静岡県と愛知県の人という。静岡県では明治20年代に始め、明治37~8年の日露戦争の時、軍への大量納入に成功、「軍人いも」の産地として一躍有名になった。
茨城の干し芋は、明治40年代にこの技術を導入して始めたものだが今では静岡を圧倒、全国生産量の8割以上を生産する「干し芋大県」になっている。

こうした歴史的な動きを知ってもらいたくて企画した干し芋展だったが、ものはやってみないと分からない。客には客の論理があるからだ。たとえば今日取材に来てくれた川越ケーブルテレビの大野由美さんの場合はこうなる。
「先日、明海大学歯学部の先生の所へ取材に行きましたら、こう嘆いておられました。『さいきんの親は子供にやわらかいものばかり与えるので、たまにかたいものをやっても吐きだしてしまう。だからあごが退化してしまって歯並びが悪くなっているし、ものもよくかめなくなっている。するめとか落花生、干し柿、干し芋など、かみごたえのあるものをいつも与えなくてはね』 そんな話を伺ったばかりだったので、これはいけるとここへ来たんです」

あごの発達と干し芋の関係なんて考えてもみなかったことだが、言われてみればいい関係にある。おかげで干し芋の効用を説くタネが一つふえた。