女性のサツマイモ好きは有名だが、男性のそれはあまり聞かない。ところが今日はそれが大好きだという人がやってきた。毎日サツマイモを欠かさずたべているそうで、こんな話をしてくれた。

「自分は昭和6年生まれ。いまは埼玉の朝霞市に住んでいるが生まれは愛媛の宇和町(西予市)。四国の字和海沿岸はけわしいリアス式の海岸で平地がない。それで住民は海に迫る山々の急傾斜地に何百年もかけて段々畑を築いてきた。それはぜんぶ畑で水田はない。冬作が麦で夏作はサツマイモである。
自分が生まれ青ったところは、海岸から山の峠を越えて入る内陸盆地なので畑だけでなく水田もある。だが農家の子だった自分はコメのめしをたべた記憶がない。親の話だと当時は戦時下の非常時で、米の供出割り当てが重かった。取れた米をぜんぶ供出しても割り当てられた量に及ばないため、親類などから借りて納めた家が何軒もあったという。
それとくらべるとサツマイモの供出割り当ては軽かったので、こっちは手元に残った。だから米は作っても、米の取れない段々畑の人たちと同じでいもだけの毎日だった。生いもがある秋から翌春までは、いもを蒸したりゆでたりしてごはんの代りにした。それがなくなるとカンコロになった。
生いもを薄くスライスして天日で干したものがそれで、冬の間に作っておく。それを砕いて炊いたものがカンコロめしである。
そんな暮らしだったものだから、自分たちの仲問はいも嫌いになった。とくに男はそうで、いもは見るのもいやだという者が多い。ところが自分だけはどういうわけかいもが好きでしょうがない。世の中にはそんな男もいるということを知ってもらいたくて、いも資料館にきたのです」