Ⅵ 品種の動向
日本の各地で今も栽培されている在来品種は、江戸時代から明治にかけて外国から導入された品種から突然変異によって系統が分かれ、各地に定着したものです。
そして、時代の要請に応じて新しい品種が誕生しました。戦前の食用主体の時代には収量が低くても美味な源氏と紅赤、戦前・戦中のアルコール原料増産時代には多収品種の護国藷と沖縄100号、戦中・戦後の食糧難時代には食用兼原料用として農林1号と2号、その後のでん粉原料用主体の時代にはタマユタカとコガネセンガンが、それぞれの時代の作付面積の半分程度を占めていました。
最近では、でん粉原料用が安価なコーンスターチに置き替わったこともあり、青果用主体の品種構成となっています。
1.用途別品種の概要
さつまいもは、用途が極めて幅広いだけに、目的にあった品種を利用することが必要になります。現在でも、コガネセンガンや高系14号のようにいろいろな用途に利用される品種もありますが、以下のように目的によって求められる品種特性は異なります。
(1)青果用品種
青果用は、古来、「赤いも」が多く、皮色が鮮やかな赤~紅色で、形は紡錘から長紡錘形、肉色は淡黄~黄、肉質は粉質で甘く、口当たりのよいものが好まれ、特に関東では粉質のものが好まれることもあり、ベニアズマのシェアがほとんどを占め、食味の優れたベニコマチや紅赤がわずかに残っています。関東以西では高系14号及びその突然変異品種である鳴門金時、土佐紅、ことぶき、ベニサツマなどがほとんどを占めています。
最近では、13年に育成された、やや肉質が粘質の「べにまさり」や、平成14年に育成された紫肉色で食味の良い「パープルスイートロード」などが普及しはじめています。
注:「ことぶき」は宮崎県産
(2)加工食品用品種
最も古い歴史をもつのは蒸切干しで、古くは静岡県、現在では茨城県が特産地です。中白(シロタ)がなく、べっ甲色で軟らかく仕上がり、粉ふきのよいものが優品であり、茨城県では粘質で歩留まりが高く、収量の多いタマユタカが用いられています。
きんとんやあん類については、剥皮が容易で蒸し上がり時間が短く、繊維の少ないことと変色しないことが必要で、高系14号及び紅赤が用いられています。焼きいも用としては焼き上がりの歩留まりと、肉質、食味が重要で、しかも貯蔵性がよく、変質・目減りの少ない品種が適しています。この点から従来は農林1号が主として利用されていましたが、現在ではベニアズマ、高系14号が用いられています。
(3)原料用品種
でん粉原料用としては、単位面積当たりのでん粉生産量の多いことがポイントで、でん粉工場側からは製品歩留まりが高く、貯蔵性が良く、でん粉白度等の製品品質がよいことが望まれます。
昭和41年に登録されたコガネセンガンは収量性、歩留まりが共に高かったため全国に広がりましたが、貯蔵性が低いという欠点があり、その後育成されたシロユタカ(昭和60年)やシロサツマ(昭和61年)に置き替わってきています。さらに最近では、極めてでん粉含量が高くかつでん粉収量の高いコナホマレ(平成12年)、でん粉収量が高く、かつ貯蔵性も優れているダイチノユメ(平成15年)が育成され、普及しはじめています。
(4)飼料用品種
さつまいもは、収穫時期が9月以降の2~3か月に限られ、貯蔵も難しいので、周年利用は難しいが、サイレージなどに利用すれば、かなり長期間の利用が可能です。夏の青刈飼料用としては専用品種のツルセンガン(昭和56年)が育成されています。いもを主に利用する場合には、でん粉原料用品種が利用でき、家畜ふん尿の圃場還元のためには、耐肥性の高い品種を選択する必要があります。
2.主要品種の作付面積シェアの動向
さつまいもは、過去半世紀で品種構成が大きく変遷していますが、現在では国の研究機関で育成された、いわゆる「育成品種」が9割を超えるシェアを占めています。用途別にその動きをみると次のようになります。
(1)青果用品種
良食味で多収のベニアズマ(昭和59年)が着実にシェアを伸ばし、さつまいも作付面積の約3割を占めており、近年は2割を占める高系14号(昭和20年)とともに、安定した作付。
(2)加工食品用品種
主として茨城県で栽培されている蒸切干し用のタマユタカ(昭和35年)は、ほぼ横ばいで推移。
(3)でん粉原料用品種
汎用品種のコガネセンガン(昭和41年)に代わって、でん粉収量が高く耐病性に優れたシロユタカのシェアが上昇。
(4)焼酎醸造用品種
専用品種ではないが、コガネセンガン(昭和41年)がほとんどを占める。
(5)在来品種等
一時は3万6千haの作付面積のあった紅赤(明治31年)が銘柄いもとして見直され、安定して作付けされている。
○ さつまいもの主要品種シェアの推移
コガネセンガン | |||||||||||
農林1号 | |||||||||||
シロユタカ | |||||||||||
シロサツマ | |||||||||||
高系14号 | |||||||||||
ベニアズマ | |||||||||||
ベニコマチ | |||||||||||
タマユタカ | |||||||||||
紅赤 |
3.新品種の育成状況
(1)育種への取組み
いも類の優良品種の開発については、国立試験研究機関(13年から独立行政法人)を中心に各種の用途に応じた品種育成に取り組んでおり、食味、品質、成分、貯蔵性、加工適性、病虫害抵抗性等の特性に着目した育種が行われています。そして、土壌病害、ウイルス病、及びセンチュウ抵抗性等の向上が課題となっています。
(2)近年の新品種
最近では、機能性、加工食品用としての適性に着目した育種に力が注がれており、アントシアニン色素を含む品種では世界初のアントシアン色素原料専用のアヤムラサキ(平成7年)、外観等栽培特性を改良したムラサキマサリ(平成13年)、色素含量が多いアケムラサキ(平成17年)、食味が良く青果用として利用できるパープルスイートロード(平成14年)が育成されています。
カロテンを含む品種としては、ジュース原料用の農林ジェイレッド(平成9年)、パウダー原料用のサニーレッド(平成10年)、蒸切干しに適しているハマコマチ(平成15年)、サラダに適するアヤコマチ(平成15年)が育成されています。
その他、蒸切干し用兼青果用の品種タマオトメ(平成13年)、電子レンジ料理でも甘味が増し食味が良いクイックスイート(平成14年)が育成されています。
また、焼酎原料用では、従来にないフルーティな香りをもつ焼酎ができる、初めての焼酎醸造用品種のジョイホワイト(平成6年)、でん粉原料用では、でん粉収量の高いコナホマレ(平成12年)やダイチノユメ(平成15年)などが育成されています。
○ 近年育成されたさつまいもの主要品種
品種名 | 育成年 | 育成場所 | 特性 |
アヤムラサキ | 平成7年 | 九農試 | アントシアン色素原料用 |
エレガントサマー | 平成8年 | 農研セ | 葉柄を野菜として利用 |
農林ジェイレッド | 平成9年 | 九農試 | 高カロチン、低でん粉、多収でジュース加工に適する. |
春こがね | 平成10年 | 農研セ | 外観品質優、良食味、青果用 |
サニーレッド | 平成10年 | 九農試 | 高カロチン、ネコブセンチュウに強、パウダー原料用 |
コナホマレ | 平成12年 | 農研セ | でん粉用、でん粉収量が非常に多い |
タマオトメ | 平成13年 | 九農セ | 蒸切干し用、ネコブセンチュウに強い |
ムラサキマサリ | 平成13年 | 九農セ | アントシアン色素原料用、直播適性 |
べにまさり | 平成13年 | 九州研 | 青果用、良食味、早堀適性 |
パープルスイートロード | 平成14年 | 作物研 | 青果用紫芋、多収、食味良好 |
クイックスイート | 平成14年 | 作物研 | 青果用、良食味、澱粉の糊化温度が低いので電子レンジ調理で甘くなる |
ハマコマチ | 平成15年 | 九州研 | 蒸切干し用、カロテン含有 |
ダイチノユメ | 平成15年 | 九州研 | でん粉用、でん粉収量が高く貯蔵性も優れる |
アヤコマチ | 平成15年 | 九州研 | サラダ、生食用、揃いが良く加工が容易、カロテン含有 |
オキコガネ | 平成16年 | 九州研 | 低糖でコロッケなど、じゃがいものような加工利用が可能 |
アケムラサキ | 平成17年 | 九州研 | アントシアニン色素含量が高い |
ときまさり | 平成19年 | 九州研 | 焼酎用、特徴のある焼酎になる |
べにはるか | 平成19年 | 九州研 | 蒸し芋の糖度が高く良食味 |
○農林水産省試験研究機関の独立行政法人化
平成13年4月1日から農林水産省の試験研究機関は独立行政法人になりました。研究施設の位置は変わっていませんが、名称は大きく変わっています。さつまいもに関しては以下のとおりです。(平成20年4月)
・独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所
食用サツマイモサブチーム(茨城県つくば市)
・独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所
サツマイモ育種研究チーム(宮崎県都城市)